近年、ニュースなどで取り上げられることが多くなり、社会的な関心が高まっている「ヤングケアラー」。とはいえ、ヤングケアラーがどのような課題を抱えているか、詳しく知らないという人も多いのではないでしょうか。今回は、ヤングケアラーが注目されるようになった背景や、10代にもできる身近な支援の方法について、大正大学社会福祉学科の教授である坂本智代枝先生に教えてもらいましょう。
- ここをCHECK
- ヤングケアラーの負担は、家族の介護(ケア)だけじゃない。
- ヤングケアラーの最大の問題は未来に希望を抱けないこと。
- 同世代の友達だからこそできる支援もある。
ヤングケアラーって何? 当事者が抱えている、見えにくい課題とは?

「ヤングケアラー」とは、家族のケアやその他の日常生活上の世話などを、過度に行っている子ども・若者のこと。身体的なケアのほか、精神的なサポートを担っているケースも珍しくなく、それが毎日続くことで、学校生活や友人関係、進路などに影響が出てしまうことがあります。
坂本先生
「ヤングケアラーは、子どもとしての時間と引き換えに、家族のケアを行なっています。ケアの具体的な内容としては、次のようなものが挙げられます」
ヤングケアラーの生活
・買い物、料理、洗濯などの家事をする
・幼い兄弟や、障がいや病気のある兄弟のお世話をする
・看病や見守り、食事、入浴、トイレなどの手伝いをする
・薬の管理や病院に付き添う、たん吸引などの処置をする
・家計を支えるためにアルバイトをする
・通訳、手話などコミュニケーションの補助をする
・アルコールや薬物など依存症を抱える家族に対応する

近年、ヤングケアラーは増加傾向にあります。その背景には、どのような要因があるのでしょうか?
坂本先生
「要因は大きく2つあり、1つ目は人口減少です。ケアを必要としている人が増えているのに対して、社会福祉やケアの担い手は減っていて、介護人材も縮小しています。ホームヘルパーなど地域のケアを支える人材も減ってきているため、サービスをなかなか使えないという問題も生じていますね。 2つ目は、核家族化していること。核家族では、親御さんは保護者であり労働者です。それに加えて、離れて暮らす祖父母の介護をしている場合もあります。このように、大人の役割が過多になることで、子どもの助けがなければ回らない状況に陥っていくのです」
ヤングケアラーが諦めざるを得ない「10代ならではの生活」
ヤングケアラーは、存在が表面化しにくく、支援が必要な状態であっても気づかれないことが多いそう。その理由について、坂本先生はこのように解説します。

坂本先生
「ケアが日常化してしまい、ヤングケアラー自身が問題に気づいていないケースが多いのです。しんどい思いをしていても、その状態が当たり前だと思っているので、支援を求めるという発想ができないのですね。
また、日本には家族主義の考え方が根付いていることも、ヤングケアラーの問題が見えづらくなっている要因です。家族のケアによってヤングケアラーに重い負荷がかかっていても、外からは『お手伝いをよくする子』『しっかりした子』と見られてしまう。このような言葉によって、ヤングケアラーは『自分で何とかしなきゃ』と思い込み、彼らが孤立してしまうんです」
ヤングケアラーが諦めてしまうことの例
・自分だけの時間を持つ
・勉強時間を確保する
・受験、進学をする
・部活などの課外活動に参加する
・友だちと放課後に遊ぶ
・心と体を休める
・大人に理解され気にかけてもらう
・未来に夢や希望を抱く

坂本先生
「元ヤングケアラーの方にお話を聞くと、学校ではずっと寝ていたとおっしゃる方が少なくありません。朝やることが多く、必然的に遅刻や居眠りも多くなり、先生から怒られる……。置かれている状況を理解してもらえないことで、孤独感が増していったという方もいました。
それに、ヤングケアラーが問題に直面するのは、学生時代だけではありません。20代、30代になってからも家族のケアに時間と体力を費やすことで、ようやく就職活動ができる環境が整ったとしても、その時には経験や知識が足りず希望する仕事に就けないといったこともありえます」
ヤングケアラーはすぐ隣にいるかも。同世代だからできること

では、身近な友達がヤングケアラーかもしれない、と思った時に私たちができることは何でしょうか。
坂本先生
「まずは、知ることです。ヤングケアラーに限ったことではありませんが、今起こっていることに対して、どんな社会的課題や地域特有の課題があるのか知ろうとすることが大事かなと思います。
次に、自分なりに気にかけておくこと。以前、元ヤングケアラーの方と話した時に、自分のことを気にかけて、たわいもない話をしてくれる友達の存在がありがたかった、とおっしゃっていました。最近、遅刻や休みが多いなと思ったら、『どうしたの?』と声をかけてみることも、同世代だからできる支援と言えるでしょう」
問題の渦中にいるヤングケアラーは、自分から相談をしたり、支援を求めたりしにくいもの。そんな時、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーのところへ一緒に行くなど、専門機関への伴走者がいれば心強いと坂本先生は話します。

「身近に専門機関がなければ、ヤングケアラーの支援団体など『ピアサポート』の場につなげるのもいいと思います。ピアサポートとは、同じ立場にいる人や経験者同士が互いを支援する活動のこと。似たような経験を持つ人と出会うことは、孤独を和らげたり、孤立を防いだりすることにつながります。
例えば、元ヤングケアラーのメンバーが立ち上げた一般社団法人ヤングケアラー協会では、ヤングケアラー同士が悩みを受け止め合ったり情報交換ができたりする、オンラインコミュニティを運営しています。LINEのチャット機能を用いた相談窓口も開設しているので、ヤングケアラーかもしれない友達に『そういうサービスがあるらしいよ』と情報提供をするだけでも十分だと思いますね」
その上でとても大切なのは、家族を否定しないことです。「子どもに家事やケアを押し付けるなんて」という批判の声は、当事者を苦しめる原因にもなっているそうです。

坂本先生
「ヤングケアラーの多くは、家族で助け合って生活しているという感覚でいます。だからこそ、家族の批判をされると傷ついてしまうんですね。彼らは、そういう状況にあることを恨んでいるわけではない。元ヤングケアラーなどの当事者がそういった実情を伝えていくことで、世の中の動きも変わっていくのではないでしょうか。
ヤングケアラー支援の最大の目的は、子どもの権利を守ることです。子どもが親や兄弟を思う気持ちを大切にしながら、どうやって子どもの権利を守っていくか……。子どもが家族のケアを一切しなくていい社会をつくるのではなく、ケアの度合いを減らすような制度や支援を整備していくことが、これからの課題だと思います」
まとめ
あなたの身近にもヤングケアラーがいるかもしれない
あなたの身近にも、家族のケアのために日々頑張っている人がいるかもしれません。まずはヤングケアラーがどのような課題を抱えているか知り、ほんの少し「自分ごと」として捉えてみることが、身近なヤングケアラーの存在に気づくきっかけになるはずです。
















