普段、授業で教わった内容や部活動でのメモを書くのに使う「ノート」。ノートの使い方は、日記、読んだ本や見た映画の記録、シール帳、フォトブックなどたくさんありますが、どんな使い道でも共通して行うのが「まとめる」作業です。情報を整理整頓する、色をつけて目立たせる、自分が美しいと感じる配置に構成する……まるで雑誌の編集者のように一冊のノートを作り上げる行為は、実はとてもクリエイティブで、感性を磨く練習にもなります。今回は、イラストレーターやコラムニストとしても活躍する大正大学表現文化学科のヨシムラヒロム先生に、ノート作りの始め方を教えてもらいました。
- ここをCHECK
- まとめるって気持ちいい。ノート作りは“癒やし”である
- 手法は自由! 続けるうちに自分の「型」に出会える
- ノート作りで会話や行動範囲がどんどん広がる?!
ノート作りは癒やし。自分だけの世界をアナログにつくる

シール帳を作ったり、好きな写真をスクラップしたり、日記をつけたり、ノート作りにはさまざまな目的と手法があります。そもそも人はどうして、情報をノートに記録しようとするのでしょうか?
ヨシムラ先生「そもそも人は誰でも『作る』ことや『記録する』ことに喜びを感じ、それ自体に快感を得るのだと思います。歴史を遡ると、古代エジプトの壁画や日本の絵巻物もそうだったでしょう。現代で言えば、日記やシール帳が流行っていることにもつながりそうです。おそらくノートの中に自分の世界を作る行為は、一種の自己防衛であり、“癒やし”の効果があるのではないでしょうか。ノートは、人間の創作欲求と自己表現をかなえてくれる、一番身近な媒体なのだと思います」
“アナログ”であることも、ノートの良さです。「印象的な物事を記録してまとめる」行為自体はSNS投稿と変わりませんが、ノートに書く場合は、描いたり、切り貼りしたり、手を動かしてページを埋めます。その物理的な工程のなかでこそ、見えるものがあるとヨシムラ先生。
ヨシムラ先生「スマートフォンでなんでもできる現代では、アナログな空間にモノを置いていく作業がとても新鮮に感じると思います。それにデジタルツールを使うと、そこそこ良いものをすぐに作れて、失敗しても簡単にやり直せてしまう。でもアナログの世界で失敗すると、頭を悩ませながら修復する作業が発生したり、逆にミスから予期せぬ良いものができたりもする。人生と似ていますよね。ノート作りも人生もアナログだから、command+Z(直前の操作を取り消すショートカット)ではやり直せないんです」
ノート作りは雑誌編集そのもの。自分の「パターン」を探そう

写真やイラスト、テキスト、コラージュなど、さまざまな表現技法で彩られるヨシムラ先生のノート。題材も、街歩きでの記録やエピソードを綴った日記のようなものなど、バラエティ豊かです。最初は写真を貼って文章を書くところから始めたというヨシムラ先生は、ノート作りを続けるうちに自分なりの視点や手法を見つけていったと言います。
ヨシムラ先生「前提として、手法はなんでもいいのです。絵が得意な人は絵を描いたらいいし、写真を貼ってもいい。今日買ったもののレシートを貼りつけて、文章を添えるだけでもいいでしょう。自分に合う制作スタイルは、ノート作りを続けるうちに分かるようになりますよ」
日常を“編集者の目”で切り取る「ネタ探し」
ノートの素材を集める行為は、「自分が何を面白いと思うのか」というセンサーを明確にする作業。ヨシムラ先生は、まず「見つけやすい題材を選ぶ」ことを大切にしていると言います。たとえば、街歩きをする時は、“気になる並び”や“少し変だと感じる場所”に意識を向けてみるのです。
ヨシムラ先生「私の場合は、『陶犬(とうけん)』と呼ばれている陶器でできた犬の置物や、面白い看板の写真、クリーニング店の人からもらった何気ないメモを取っておいて、ノートに貼っています。ノート作りの楽しみ方は人それぞれ。私自身は、他の誰も取り上げないであろう、自分だけが面白いと思えるものを見つけ、今まで見たことのないグラフィックで定着させることに喜びを感じています。他人に見せた時に笑いが取れれば、なお良しですね」
ページを構成する「配置」「強弱」「余白」
素材を集めたら、次は「ページというアナログな空間に、それらをどう配置し、どう見せるか」という編集作業です。
ヨシムラ先生「この工程はまさに、雑誌における編集作業そのものだと思います。昔はアナログで雑誌を作っていて、ノートづくりはその回帰とも言えますね。特に、太字・色・大きさなどで“強弱”をつけると、自分の記憶の濃淡が、そのままページ内の項目の大小として現れます。重要なものは自然と場所を取り、曖昧なものは余白を生む……ページにまとめるという行為は、記憶を編むことでもあります」
ページの余白は“ヌケ感”とも言え、この“間”をどのようにコントロールするかはとても難しいポイントだと、とヨシムラ先生は続けます。
ヨシムラ先生「ページにまとめる過程で、省いてはいけない部分と、省いてもいい部分があります。それを見極める編集感覚が、ページの質を左右すると言っても過言ではありません。余白は、日本的な侘び寂びが正解の時もあれば、空白を埋め尽くすような構図が成立する場合もあり、『整理と混雑』のどちらも許されるもの。初めのうちは、ページを埋めつくすのがおすすめです。続けていくことで、引き算するべき部分がだんだんと分かるようになっていくでしょう」
継続に必要な「パターン」化
ノート作りを続けていくと、見出しや配置が毎回似てくるなど、自分だけの「パターン」が生まれてきます。
ヨシムラ先生「パターンは、生み出すまでが大変です。しかし、自分の『型』は表現において非常に重要。いくつものページを作る中でようやく自分の中で『しっくり』くるものが現れ、それを繰り返していくことで、パターンが生まれます。ある程度手軽に、継続的にものを作っていくためには、パターン化はどうしても必要ですが、そのパターンを『自分の色』にできるか、『マンネリ』にしてしまうかは自分次第。大切なのは、その選択肢、つまりパターンを数多く持っておくことです」
ノート作りは、感性の筋トレ。会話も世界も広がっていく

ノート作りを続けることで磨かれるのは、ページを作る技術やセンスだけではありません。面白いと思うモノやコトを集め、それをノートに記録する。するとなんと、日常生活で面白い雑談ができるようになるのです!
ヨシムラ先生「トークが上手い人って、エピソードの引き出しが多く、それを瞬時に開けられる人だと思うんです。ノート作りに時間をかければかけるほど、記録した内容の解像度が上がり、記憶として定着する。記憶が定着すると、自然と会話でもエピソードが出てくるようになります。写真やコラージュだけだと記憶の定着が弱いので、できれば文章を添えることをおすすめします。コミュニケーションは人が生きていくうえで重要な要素。雑談力は大きな武器になるのではないでしょうか」
ノート作りが習慣づくと、会話の引き出しが増えるだけでなく、日々の行動にも変化が。題材を求めて住んでいる町を探検したり、未知の本や映画に触れたり、新しい人と話してみたり。ノート作りを目的に行動を起こすうちに、いつの間にか自分の世界が広がっていることにも気づくでしょう。
ヨシムラ先生「先日、シール帳オタクの方にお会いしたのですが、その方はシールを買うために韓国まで行ったと言っていました。ノート作りは自分の行動範囲をも広げてくれるんですね。ノート作りを通して、さまざまな世界を観察する力がつき、自分だけの面白さ、つまり自分の哲学のようなものを発見する。それがノートの最たる効能だと思います」
まとめ
自分が見た世界をノートにまとめて記録する。それは表現技術や自分の感性を磨く“筋トレ”のような行為で、誰にでも今日からできること。あなたにいま見えている世界を、最初の1ページに綴ってみてください。

















