本に囲まれた空間でドリンクを飲みながら、ゆっくり時間を過ごす。そんな体験ができる「ブックカフェ」が、都市部を中心に増えつつあります。選び抜かれた本や雑誌に触れる中で、新しい知識や考え方に出会い、思いがけず興味の幅が広がることもあるでしょう。実はカフェという場所は、歴史的に見ても文学や思想が育まれた「メディアの原点」でもあります。今回は、メディア論を専門とする大正大学 表現文化学科の仲俣暁生先生に、ブックカフェの魅力や楽しみ方について伺いました。併せて、学生でも気軽に訪れやすい、おすすめのブックカフェも紹介していただきます。
- ここをCHECK
- 「本」と「カフェ」はもともと相性がいい
- 本が苦手な人でも、ブックカフェなら行きやすい
- 安心して長居できる「サードプレイス」としてのブックカフェ
書店が変わり始めている? 「本を選ぶ場所」から「過ごす場所」へ

今、書店はただ本を買う場所から、「時間を過ごす場所」へと少しずつ姿を変えています。その変化を象徴する存在が「ブックカフェ」です。仲俣先生によると、ブックカフェは大きく3つのタイプに分類できるといいます。
1つ目は、カフェが主体で、店内に多くの本が置かれているタイプ。内装の一部として本が並び、自由に手に取って読めるところもあります。
2つ目は、大型書店の中にカフェが併設されているタイプ。「ジュンク堂書店」のように、本格的なカフェスペースを店舗の一部として展開するスタイルで、実はかなり前から存在していました。
3つ目は、カフェスペースを併設した個性派書店。個人経営ならではのこだわりが詰まった書店の一角に、小さなカフェスペースが設けられているタイプです。
仲俣先生「本を買った後に別のカフェを探すより、書店の中にカフェスペースがある方が合理的ですよね。こうした形態の書店は、もともとアメリカで始まり、日本では1990年ごろから広がってきました。飲食は本の販売より粗利が多く利益を出しやすい業態であるため、本と組み合わせることで経営のバランスが取りやすくなるという側面もあります。ブックカフェが増えている背景には、そうした経営上の理由もあるのではないでしょうか」
では、なぜ書店とカフェは、これほど自然に結びついてきたのでしょうか。その理由を探るために、少し歴史を振り返ってみましょう。
仲俣先生「印刷メディアの歴史を振り返ると、イギリスのコーヒーハウスやフランスのカフェなどが、文学や思想を伝える場として機能していました。の今のブックカフェも、かつてのように実空間で人が集うことで、新たな文化が生まれる場であることに変わりはありません。高校生にとってなじみのあるカフェを通じて考えれば、メディアの成り立ちをより具体的にイメージできるのではないでしょうか。
そして書店もまた、未知の情報や考え方に出会う場として、カフェと共通する役割を担っています。私はよく学生たちに『本を買わなくてもいいから、書店に行きなさい』と話しています。それは、書店そのものが膨大な情報量を持つ場所だからです。特にブックカフェなら、座って本や雑誌に囲まれる、“書物浴”のような体験ができます。少し休憩してからもう一度棚を眺めれば、さっきは気付かなかった本に出会えるかもしれません。目当ての本を買ってすぐ帰るのではなく、時間をかけて本と向き合う体験を、ぜひ味わってほしいと思っています」
本が苦手でも大丈夫。行くだけで楽しいブックカフェの魅力

10代の学生にとって、ブックカフェは少し敷居が高く感じられるかもしれません。特に個性派書店は内装にこだわった店も多く、扉を開けるのに勇気が必要でしょう。しかし、思いきって訪れてみると、これまで知らなかった世界がふっと開けるはずです。
仲俣先生「東京にも、入りやすいブックカフェがたくさんあります。例えば、下北沢の『本屋B&B』は、小田急線の線路跡地にできたBONUS TRACKという施設の中にあり、周辺一帯が一つの街のような開放感があります。また、神保町の『神保町ブックセンター』は、カフェとコワーキングスペースを併設した、開かれたつくりになっています。体験として楽しむなら、代官山T-SITE内にある『代官山 蔦屋書店』もおすすめです。おしゃれで、少し背伸びした気分を味わえる場所ですね」
また、ブックカフェは必ずしも「本を買うため」だけに行く場所ではありません。ドリンクを楽しむため、あるいは個性的な雑貨を目当てに訪れてもいい。そういった意味では、「本が苦手」という人にとっても、実はハードルの低い場所なのです。
仲俣先生「『本が苦手』という人は、実は『自分に合う本に出会えていない』だけかもしれません。人生を変えるような本は、検索するだけではなかなか見つからないもの。その点、独自の視点で選書されたブックカフェなら、自分にとって大切な1冊に出会える可能性も高まります」
自分がどんな本を読みたいかわからない、あるいは普段選ばない本に出会ってみたい人は、池袋にある「梟書茶房」を訪ねてみるのもいいでしょう。ここでは、タイトルも表紙も隠された文庫本が並び、代わりに推薦文が添えられています。選ぶ手がかりになるのは、自分の直感だけです。
仲俣先生「本を選ぶという行為は、とても具体的で、その時にならないと必要性が分からないものです。悩みがある、勉強やレポートで必要、好きな作家の本を探したい……。そうした明確な目的がなくても、ブックカフェは行くだけで楽しい場所です。いろいろな発見にワクワクし、座って長居もできる。ドリンクを飲みながら過ごす1時間ほどの“余白”こそが、最大の魅力なのだと思います」
学校でも家でもない、もう一つの居場所

ブックカフェの魅力は、こうした「本との出会いやすさ」だけにとどまりません。選りすぐりの本に囲まれながら、どう時間を過ごすか。その「居心地」や「体験」が、多くの人に支持されています。
例えば、ブックカフェは、本を「読む」場所であると同時に、文章を「書く」場所でもあります。その空間に身を置くだけで気持ちが少し高まり、思いがけず新しい言葉が浮かんでくることもあるでしょう。
また、普段は行かない場所にあるブックカフェを探すのも楽しみの一つです。ネットですぐに情報が手に入る時代だからこそ、街を歩きながら偶然見つけた場所の記憶は、強く心に残ります。
仲俣先生「京都の『恵文社一乗寺店』は、決して便利とは言えない立地にありながら、全国から多くのファンが訪れる書店です。隣接するギャラリーの奥には、イベントやワークショップ、カフェとして使われるスペース『コテージ』があり、多様な文化に触れることができます」
ブックカフェに行って本を買わずに帰るのは申し訳ない、と感じる人もいるかもしれません。しかし、ドリンクを1杯飲むだけで、実は本を1冊買うのと同じくらいお店への貢献になるため、気兼ねする必要はありません。
仲俣先生「テーマパークよりずっと安価で、『ちょっと行ってみようよ』と友だちを誘いやすいのも、ブックカフェのいいところです。ドリンク1杯の値段で、今の時代の空気が詰まった本や雑誌に触れられ、映画や料理、手芸など、あらゆる興味に応えてくれます。そういった意味で、ブックカフェは『タイパ』も『コスパ』も優れた場所と言えますね」
さらに、ブックカフェは「人の中に紛れられる場所」でもあります。仲俣先生によれば、かつて下北沢にあった「気流舎」という古書店は、学校に行きにくい学生たちにとって、ある種のアジール(避難所)になっていたそうです。「2階が屋根裏のような造りで、人目を気にせず過ごせる空間だった」と、先生は振り返ります。
仲俣先生「本があって、椅子があって、飲み物が飲める。それだけで、人は安心して長居ができます。ブックカフェは、学校でも家でも、アルバイト先でもない、ひと息つける『サードプレイス(第三の居場所)』としての役割も担っているのです」

こうした考え方は、教育の現場にも取り入れられ始めています。例えば、大正大学の附属図書館は、本が読めて、カフェがあり、腰を下ろせる場所が豊富にある先進的な空間です。1階には軽食を扱う売店があって、勉強も食事もできる一方、2階以上は食事禁止とするなど、集中とリラックスのメリハリがつけられています。
仲俣先生「ブックカフェは、大人よりもむしろ、感性の柔らかい学生の方が楽しめる場所です。『本を読まなきゃ』と構えずに、まずは気軽に訪れてみてください。本に囲まれた空間に身を置くだけで、十分に価値のある体験ができるはずですよ」
まとめ
ブックカフェは、未来の自分につながる小さなヒントが転がっている場所です。本が得意でも、苦手でも構いません。ページをめくらなくても、その空間にいるだけで、心は少し動きます。友だちとでも、1人でも。学校でも家でもない第三の居場所で、自分の「好き」や「問い」と、ゆっくり向き合ってみてください。
※掲載情報はインタビュー当時のものです。最新の営業状況などは各店舗の公式サイトをご確認ください。

















