好きなアニメやゲームの舞台を訪れる「聖地巡礼」は、今や日本国内だけでなく、海外にも広く浸透しています。どうして聖地巡礼はこれほど人気を集め、多くの人を惹きつけているのでしょうか? 今回は、大正大学人文学科の星野壮先生に、宗教研究の立場から、宗教的な聖地巡礼とアニメ聖地巡礼の関係について解説していただきました。
- ここをCHECK
- アニメやドラマの舞台へ! 今「聖地巡礼」が人気なワケ
- 宗教的な「聖地巡礼」と、推し活の「聖地巡礼」に共通点はある?
- 忘れられた文化財に光が当たる。聖地巡礼が生み出す新しい価値
海外ファンも注目!「聖地巡礼」が広がっている理由

近年、アニメやドラマ、ゲームなどの舞台になった場所を「聖地」と呼び、その場所を訪れる「聖地巡礼」という旅のスタイルが人気を集めています。この言葉が広く使われるようになったのは2000年代以降。しかし、1990年代には既に、熱心なファンたちが好きな作品のロケ地や舞台を訪れるという行動が始まっていました。
聖地巡礼の代表的な例としてよく知られているのが、2007年に放送されたアニメ『らき☆すた』の舞台となった埼玉県久喜市の鷲宮神社です。放送の翌年には初詣客が急増し、やがてそれは町おこしにもつながりました。
星野先生「最近では、海外のファンが、聖地巡礼を目的に日本を訪れるケースも増えています。例えば、佐賀県のとある神社は、タイで大ヒットした映画のロケ地になったことで、たくさんのタイ人観光客が訪れるようになりました。また、SNSでは、海外の方が日本の聖地を紹介するなど、国境を越えて関心が高まっています」
このように、アニメの「聖地巡礼」は単なる観光ではなく、「その場所に行く意味」を求める旅です。かつての巡礼が宗教的な救いや、つながりを求めたように、現代のファンもまた、物語の世界と自分自身を重ね合わせ、その舞台とのつながりを感じようとしているのかもしれません。そうした感覚は今や、国内外を問わず、多くの人に共通する感覚になりつつあります。
聖地巡礼と宗教的実践の共通点とは?

「聖地巡礼」とは、もともと、神や仏にゆかりのある地を巡り、恩寵を得ようとする宗教的な行為を指します。
星野先生「日本でも、昔から、西国三十三所観音霊場や四国八十八箇所霊場といった巡礼が存在していました。貴族たちがさまざまなことを願って巡礼を行う一方で、中には施しを受けることを目的に巡礼の旅に出る人もいたようです。つまり、巡礼は“祈り”の手段であると同時に、“生きるため”の行動でもあったようですね」
「聖地巡礼」という言葉が、今の日本で推し活に抵抗なく使われているのは、このような日本人の宗教に対する独特な考え方が関係しているからかもしれません。では、宗教的な行為の「聖地巡礼」と、推し活の「聖地巡礼」に共通点はあるのでしょうか?
星野先生「『宗教』とは何かと考える時に、大きく2つに分けることができると言われてきました。1つは、教えや決まった儀式など“形”に注目する考え方(実体的定義)。もう1つは、宗教が人にとってどんな“役割”を果たしているかに注目する考え方(機能的定義)です。
研究者の中には、推し活や聖地巡礼を『機能的定義』の視点から捉える人もいます。推しを応援したり、作品の舞台を訪れたりすることで、『生きがい』や『心の支え』といった、精神的な意味を見出す役割を果たすからです」
一方で、星野先生によれば、作品の舞台となった場所を実際に訪れる行為には、宗教的巡礼と共通する実践的側面が見られるそうです。
星野先生「これもある研究者が指摘していることですが、例えば、遠方から苦労して向かう『苦行性』、同じ場所を繰り返し訪れる『反復性』などが挙げられます。また、絵馬に願い事を書くように、聖地に設置されたコミュニケーションノートに願い事を書き込む行為も、宗教的な儀礼に通じるものと言えるでしょう」
聖地巡礼がつなぐ、寺社とファンの新しい関係
「聖地巡礼」は、一見すると観光的なブームに見えますが、地域の歴史や文化資源の再評価につながる重要なきっかけとなっています。
「聖地」とは、「神さまや大切なものが現れた場所」であるとされ、多くの場合、宗教や歴史と深い関わりがあると考えることができます。しかし、それよりも学問的には「そのような宗教や歴史にちなんだ場所を訪れた人々が、『ここは特別な場所だ』と認めることによって、聖地としての意味が生まれる」と考える方が妥当です。つまり、そこに価値や感動を見出す人の存在があってこそ、その場所は「聖地」と呼ばれるのです。

星野先生「このような視点で考えると、今まであまり注目されてこなかった場所が、ポップカルチャーの影響で新たな関心を集め、再び魅力を放ちはじめ、人びとがそこに集いはじめるという現象について、あえて『聖地巡礼』という言葉をあてることにも納得がいきます。例えば、ある神社に伝わる刀剣が、人気ゲーム『刀剣乱舞ONLINE』に登場したことをきっかけに、多くの若者がその神社を訪れるようになったケースがあります。それまで忘れられかけていた文化財が、現代のコンテンツとの出会いによって、新たな光を浴び、訪れる価値のある場所となるのです」
こうした状況の中で、寺社側も来訪者を否定せず、いろいろと考えながら受け入れている例が見られます。
星野先生「寺社側は、御朱印などを通じて来訪者と接点を持ち、継続的な関係を大切にしています。また、作品のファンの中には、来訪をきっかけに参拝や寺社に親しみを感じるようになる人もいます。ある研究者は、現代人の多くは“弱い信仰者”であると言いますが、その場所を訪れることによって、その意識が賦活化(眠っていた信仰心が刺激され活性化される)することもあるのかもしれません」
若者にとっての聖地巡礼は、単なる趣味にとどまりません。なぜなら、インドアで完結しがちなアニメやゲームへの関心が、実際に旅に出て移動したり、その場所で他のファンと出会ったりする行動へとつながるからです。
星野先生「こうした現実世界での体験は、人間の成長に結び付くかもしれません。聖地巡礼は、現代における新たな“学び”のかたちとして、十分に価値のある行為と言えるでしょう」
まとめ
作品や物語への想いが、自分の足で旅をするきっかけになったり、知らなかった土地の魅力に気付かせてくれたりする……。そんな体験が「聖地巡礼」には詰まっています。もしも今、好きな作品の舞台を訪れたいと思っているなら、ぜひ思い切って旅に出てみてください。そこには、自分にとっての新しい価値や、誰かとの新しいつながりが待っているはずです。
















