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聖地巡礼がもたらす経済効果とは? 推し活で地域創生を後押ししよう

推し活の楽しみ方の一つである聖地巡礼。好きなアニメやドラマの舞台となった地域に、いつか行ってみたいと思っている人も多いのではないでしょうか。今回は推し活と地域創生の関係について、大正大学地域創生学科の高柳直弥先生に教えてもらいました!

ここをCHECK
  • 何の変哲もない駅や神社がある日突然「聖地」になる。
  • 「刀剣乱舞」は作品をきっかけにリアル体験を促した成功例。
  • SNSで観光地の写真をシェアするだけでも地域創生に貢献できる。

スポットの「聖地化」が地域の魅力の再発見につながる

近年、あらゆるジャンルにおいて推し活がブームです。推し活をする人々の中には、お金を使うことが「推し」の活動を支えることにつながると考える人も多く、結果として、エンタメ業界や小売業界、ホテル業界など、さまざまな業界の売上にも貢献しています。

矢野経済研究所が2023年12月に発表した「『オタク』市場に関する調査」によると、2022年のオタク市場全体の経済規模は8,000億円近く。推し活の中で、最もボリュームが大きかったジャンルは「アニメ」でした。

高柳先生「作品のモデルとなったスポットを巡る聖地巡礼は、観光業の活性化にもつながっています。例えば、駅や神社などのスポットが作品に登場したことで“聖地”になり、人がたくさん訪れるようになったという話はよく聞きますね」 これまでとは異なる客層が訪れることで、その地域の飲食店や宿泊施設、土産物店などの売り上げが相対的に上がっていくケースも。特に、アニメやゲームは、地域に想定以上の経済効果をもたらすジャンルとして注目されているそうです。

高柳先生「これまで観光資源だと思われていなかったスポットが、作品のファンによって聖地化されることで、地域の人々が地元の魅力を“再発見”したり、アイデンティティを再確認したりすることにつながります。それをきっかけに、地元をもっと盛り上げようと活動し始める人が現れて、地域の活性化につながっていくこともあります」

今や、推し活の一種として親しまれている聖地巡礼は、専門的には「コンテンツツーリズム」や「アニメツーリズム」と呼ばれることもあります。では、その魅力は一体どこにあるのでしょうか?

高柳先生「聖地巡礼の魅力は、何といっても、作品の世界に入り込んだ気分を味わえることでしょう。推しが見た風景を自分の目で確かめたり、推しが立った場所で同じようにポーズをとって写真を撮ったり、同じものを食べたりすることで、世界観を肌で感じられるだけでなく、作品への理解や愛着も深まります。

また、ファン同士で聖地を訪問し感動を共有できることも、聖地巡礼の魅力だと思います。SNSでつながった推し友とオフラインで初めて会うのが、聖地ということもあり得るかもしれませんね」

聖地巡礼をきっかけに高い経済効果が生まれた例は?

高柳先生によると、聖地巡礼によって高い経済効果が生まれたり、地域が活性化したりした例としては、『君の名は。』の岐阜県飛騨市や、『ラブライブ!サンシャイン!!』の静岡県沼津市、『夏目友人帳』の熊本県人吉・球磨地域などが挙げられるそうです。

アニメ以外のジャンルでいえば、NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)や大河ドラマの舞台になった地域は高い経済効果が生まれやすいといいます。2013年に放送されたドラマ『あまちゃん』の舞台である北三陸市のロケ地となった岩手県久慈市などは、その好例でしょう。 高柳先生「ゲームの『刀剣乱舞ONLINE』では、作品の世界観をより理解するために、ファンが自ら刀の歴史や史実を勉強し始めるという現象が起きているそうです。勉強の一環として、キャラクターにゆかりのある地域を訪れたり、実際の刀が展示されている博物館に行ったりする活動も定番化しているとか。地域の博物館で刀をテーマにした特別展示会やイベントを開催すると、ファンが殺到するといった話も聞きますね。

全ての要素をゲームのコンテンツとして用意するわけではなく、ある程度ファンが調べたり想像したりできる余地を残すことで、リアルな体験を促すことに成功した例と言えるのではないでしょうか」

従来の観光は、テレビ番組や雑誌で紹介されたスポットや、権威ある機関が指定した文化財など、誰かが「価値がある」とラベルを貼った場所や物を見に行くという在り方が一般的でした。一方、聖地巡礼の目的は、作品の中で気に入っているスポットや、推しに関連する物を見たり体験したりすることであり、従来の観光の在り方とは異なります。

高柳先生「観光でその地域を一時的に訪れる人や実際にその地域に住んでいる人ではなく、地域と多様に関わる人を『関係人口』と呼びます。現在、各自治体では、地域に居住していないけれども地域に何らかの形で関わりを持つ人々をいかに増やすかということに取り組んでいます。

聖地巡礼は、地域にとってまさにチャンスです。好きなアニメやドラマをきっかけに地域を訪れてくれたファンに、もう一度訪れてもらうにはどのような仕掛けや仕組みを用意すればいいか。そのような視点は、これからの地域創生を考える上で欠かせないでしょう。実際に、自治体が主導して、アニメやドラマの制作側とタイアップをするような動きも出てきているようです」

推し活を通して地域を宣伝! 10代にもできる地域創生のアクション

地域創生とは、簡単に言えば「地域の社会または経済を良くしていく取り組み」のこと。では、地域が活性化することで、私たち若者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

高柳先生「地域が元気な状態の捉え方にもよりますが、学校などの教育を受ける場や、就職先の選択肢の増加、ショッピングモールや映画館、スポーツ施設といった娯楽の場の充実といったことが考えられます。このように、多様な選択肢がある状態を維持できることが、若者にとって最大のメリットですね」

地域創生を実現するには、そこに暮らす人々の頑張りだけでなく、地域の外側からのアクションも必要です。では、若者が地域創生を後押しできるアクションとして、どのようなことが挙げられるでしょうか。

高柳先生「大きく二つあり、一つは観光などの形でその地域を訪れることです。聖地巡礼もここに含まれますね。自分が行った場所や買ったものをSNSに投稿するだけでも、地域の宣伝につながり、地域創生に貢献できますよ。できれば、自分がその地域で見出した『魅力』をシェアしてみてください。その投稿がきっかけで、地域の魅力の再発見につながる可能性も十分考えられます。

もう一つは、大学の授業などをきっかけに地域と関わることです。例えば、大正大学では『旅する大学』を掲げており、キャンパスで理論を学ぶだけでなく、さまざまな地域で実践したりフィールドワークを行ったりすることを推奨しています」

大正大学では、現在、100以上の自治体と連携協定を結んでいます。高柳先生が所属する地域創生学科の学生は、これらの自治体からいずれかを選んで中長期滞在し、地域コミュニティと交わりながら調査活動を進めるそうです。

高柳先生「学生たちは、その地域の資源は何か、その資源を生かすためにどのような取り組みが行われているかといったことを肌で体験し、学びを深めて帰って来ます。調査活動をきっかけに、その地域に愛着が湧いて、地元の人たちとの交流が長く続くといったことも実際に起こっていますね。まさに、地域に付かず離れず関わりながら、地域創生に貢献しているいい例だと思います」

まとめ

推し活を入り口に応援したい地域を見つけてみよう

ただ楽しんで行っている推し活や聖地巡礼が、実は地域の魅力を掘り起こしたり、経済効果を生んだりすることにつながっています。推しをきっかけにさまざまな場所へ足を運んだら、次は応援したい「推しの地域」をぜひ見つけてみてください!

取材・文:東谷好依
撮影:杉﨑恭一
編集:エクスライト