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音楽と宗教は深く結び付いている? 世界をより深く知るためのヒントとは

皆さんはどんなジャンルの音楽が好きですか? たくさんの人を熱狂させるポップミュージックから、西洋のクラシック音楽、各地に伝わる音楽、儀式やスポーツに使われる音楽まで、世界にはさまざまなジャンルの音楽があります。実は、そうした音楽の多くは、それぞれの土地で育まれた文化とつながっていて、宗教と深い関わりを持っていることもあるのです。

宗教の世界に音楽は欠かせません。民族音楽学を専門とする伏木香織先生は、「宗教を理解することは、異文化を理解すること。音楽はその入口になるかもしれない」と話します。今回は世界を理解するヒントになるかもしれない、宗教の中にある音楽を深堀りしてみましょう。

ここをCHECK
  • EDMな般若心経? 仏教×ポップミュージックが面白い
  • 切っても切れない宗教と音楽の関係
  • 宗教を知ることは相手を知ること。音楽を入口にしよう

歌うお坊さんが世界でバズる。ポップミュージックと仏教

お寺と聞くと厳粛なイメージがありますが、意外にもフェスやライブといった音楽イベントの会場になることがよくあります。ジャンルも幅広く、皆さんが好きな有名ポップミュージシャンのコンサートが、お寺で開かれるというニュースを聞いたこともあるでしょう。伏木先生いわく、お寺にとって音楽はウェルカムな存在。全国を見渡せば、音響設備を備えたお寺もあるそうです。

伏木先生「境内にステージを設けたり、お寺の中の会館にイベントスペースを用意したりと、宗派に関わらず、お寺の中には音楽を演奏できる場所が意外と多くあるんです。教会でライブが行われるなど、世界各地でも同じようなことが行われていますよね。それは音楽が、宗教と人々をつなぐ役割をしてくれるからです。音楽をきっかけにお寺に来てもらい、宗教を知る入口になればというのが、宗教指導者の意識としてあるんですね」

場所を提供するだけにとどまらず、現役のお坊さんがミュージシャンとして活動するケースも見られます。音楽の力で、仏教の世界がより身近に感じられるようになってきているのです。

伏木先生「例えば、お経をフォークソングやEDM風の音楽にアレンジしてYouTubeで反響を呼んだ『キッサコ(薬師寺寛邦氏のプロジェクト名)』は、台湾や中国でツアーを行うなど、海外でも人気を集めています。また、“仏教×笑い×音楽”をテーマに、仏さまの教えをコミカルな音楽にのせて発信するバンド『THE 南無ズ』は、ボーカルがお坊さんで、他のメンバーも元お笑い芸人さんなどの経歴を持つ“仏教エンターテインメント集団”。中でも『てら・テラ・寺』という曲のMVは、面白いのでおすすめです。撮影場所には実際のお寺が使われているんですよ」

宗教空間に音楽があるのは自然なこと。世界の宗教音楽

もちろん伝統的な仏教の中にも、さまざまな音楽が存在しています。そもそも極楽浄土には常に清らかな音楽が流れているとされていて、これを「天上の音楽」と言います。また、人が亡くなると、天上から菩薩が楽器を演奏しながら降りてきて、極楽浄土へ迎え入れてくれるという信仰もあったりするそうです。

伏木先生「お経は『声明(しょうみょう)』と呼ばれ、音楽学の世界では『声の音楽』とされています。リズムや抑揚をつけて読む、つまり音楽にすることで、聴く人の心に仏の教えを効果的に伝える役割を果たしています。前述のキッサコさんは、まさにお経のリズムを現代音楽に昇華した人と言えるでしょう。ちなみに、中には音痴だからと、リズムや抑揚をつけて読むお経に苦手意識を持つお坊さんもいるんです」

他の宗教では、どんなふうに音楽は位置付けられているでしょうか。例えばキリスト教では、典礼(教会で行われる宗教的な儀式や形式)において音楽は欠かせない存在です。ミサの種類によって使用される楽曲の組み合わせや順番が変わり、讃美歌を通じて神への感謝や祈りを捧げます。カトリック教会では、死者のために行う特別なミサで「レクイエム」と呼ばれる楽曲が歌われたり演奏されたりすることもあります。

伏木先生「音楽と宗教の関わりはとても深いんです。現代で聞かれている音楽も、そのルーツをたどれば宗教に行き着くことがあります。例えば、西洋のクラシック音楽は、かつてはキリスト教と強く結び付いていて、典礼の形式に従って曲の順番が構成されていることが多かったんです。キリスト教の背景が理解できると、クラシックの曲の構造や意味もより深くわかるようになります。仏教音楽も、宗派によってスタイルが大きく異なっていて面白いですよ。例えば、天台宗や真言宗はとっても華やかで、声明を伝えるための楽譜が高度に発達しています。所作も歌も派手で、エンターテイメント性にも富んでいるんです」

宗教は文化を理解する鍵。音楽を入口に宗教を知ることができる!

日本人は無宗教と言われることがありますが、食事の前に「いただきます」と言ったり、お寺や神社で願い事をしたり、お祭りを楽しんだりと、実は日常の中に宗教的な習慣が深く根付いています。同じように、世界にはさまざまな宗教が存在し、それぞれの宗教が人々の文化や価値観の基盤になっているのです。つまり、宗教を知ることは、世界の人々を理解し、彼らとつながる第一歩になることなのだと、伏木先生は話します。

伏木先生「戦後の日本は、教育や行政の場で宗教について語らないようにして発展してきました。しかし、世界には多様な宗教が存在し、信仰を中心に生活している人も大勢います。宗教の知識がなければ、国際社会の中で、信仰を中心に生活する他者を理解し、適切に関わることは難しいのです。海外で出会った人が、何を信仰していて、どのような信仰に基づいた生活をしていているのか。それを知ることは、相手の文化をリスペクトすることであり、それこそが深い信頼関係や絆を築くために欠かせないことなのです」

服装や食べ物、日々の習慣など、私たちの生活の根っこには宗教が関わっていることが少なくありません。もし皆さんが将来、海外で仕事をしたり、異なる文化圏の人と仲良くなったりしたいと思った時、その人の宗教的背景を知っておくことで、よりスムーズに理解し合えるかもしれません。そして、音楽こそが宗教を理解するきっかけになるかもしれないと、伏木先生は話します。

伏木先生「宗教と音楽は密接につながっています。この宗教音楽がどのように育まれてきたのか、なぜこの楽器が使われるのか、どうしてこのようなメロディになっているのか。その成り立ちや構造を知ることで、宗教への理解につながっていくはずです。宗教音楽に限らず、誰かと仲良くなりたいと思った時、まず相手の好きな音楽を知ろうとすることがありますよね。そういった意味でも、音楽は世界とつながるための“パスポート”になるのではないでしょうか」

まとめ

全人類が共通で持っている音楽。きっと皆さんが好きな音楽には、共感する考え方や、信じているものが反映されているのではないでしょうか。宗教の中にある音楽も、それと同じです。人々が信じる教えや精神をもとに、長い時間をかけて築き上げられてきたものなのです。音楽を入口に世界とつながってみる、そんな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

取材・文:井上麻子

編集:エクスライト