悩み解消

「話すのが苦手」でも大丈夫。自分にフィットする言葉とスタイルを探す旅

自分の感情を言葉で表現するのが苦手、コミュ力に自信がない……と悩んでいる人は少なくないはず。人とコミュニケーションを取ることは、楽しくもあり、難しくもありますよね。

大正大学人文学科の行森まさみ先生は「話すのが得意なことだけを『コミュ力』と言うのではありません」と言います。それより大事なのは、自分に合ったコミュニケーションのスタイルや、心を表す言葉を見つけること。今回は、自分の心を伝える方法の探し方を行森先生に教えてもらいましょう。

ここをCHECK
  • 空気を読むのは悪いことじゃない!
  • コミュ力が高い=話し上手だけじゃない
  • あなたの心に合う言葉とスタイルを見つけよう

空気を読むのは「場」を大切にしているから

世界の中でも、自己主張が苦手だと言われることが多い日本人。どうしてなのでしょうか?

アメリカ留学を通して、日本と英語圏のコミュニケーションの違いを肌で感じたという行森先生は、コミュニケーションにおいて大切にしていることが違うからではないかと話します。

行森先生「アメリカでは相手の反応がどうであれ、『自分の気持ちを伝えること』が大事にされます。でも日本は真逆で、自分の発言に対して周りがどう反応するのかをとても気にしますよね。これは日本人が『場』をすごく大事にしているからだと思います。

西洋に比べて、日本で暮らす私たちの社会はコミュニティに属することがベースにあります。だから、周囲と上手く調和するための言葉が発達したのではないでしょうか。

日本には一人称表現がたくさんあるのもそう。例えば、私は大学では自分のことを『私』と表現しますが、子どもの前では『ママ』と言います。でも英語の一人称は『I』だけですよね。日本人は、場や相手に合わせて、自分を表す言葉すら選んでいるんです。日本とアメリカのどちらが良い悪いではなく、コミュニケーションにおいて何を大事にしているかが違うだけなのだと思います」

先生いわく、日本人は会話のラリーや相づちを打つ回数も英語圏の人より多いのだとか。話す相手によって自然に言葉を使い分け、相手が心地よい会話をしようとする。「自己主張が苦手」と言われる日本人のコミュニケーションは、周囲との調和を大切にする精神の現れなのかもしれませんね。

コミュ力に自信がないなら、聞き上手になればいい

コミュニケーションが上手な人のことを「コミュ力が高い」と言いますが、「コミュ力」って一体なんなのでしょうか? 行森先生のもとには、就職活動のグループディスカッションでうまく発言できないと悩む学生が相談に訪れます。そんなとき、先生はこうアドバイスするそうです。

行森先生「話すのが得意な人だけじゃなく、“話しやすい人”もコミュ力が高いと言えます。だから相談に来た学生には『まずは相手の話をよく聞くことから始めてみたら?』と伝えています。就職活動のグループディスカッションでは、人の発言を深掘りしたり、他人の発言をちゃんと覚えていたりする学生も、企業に好印象を与えます。相手の話をよく聞き、否定をせず受け止めるということも立派なコミュ力。まずは聞き上手を目指して、将来的に必要な場面で、自分の意見も話せるようになったら素敵ですね」

他人とコミュニケーションを取るうえで、もう一つ知っておきたいのが「会話の目的地」です。相手が何を求めて会話しているのか、会話を通して何を成し遂げたいのか、お互いの目的地がズレていると、コミュニケーションがすれ違ってしまいます。

行森先生「30年前に話題となった、言語学者デボラ・タネンの書籍『わかりあえない理由』には、男女の会話スタイルの違いがこう書かれています。女性の会話は『ラポートトーク』といって、共感を得て気持ちを交換することが目的。一方、男性は『レポートトーク』で、事実をふまえて解決策を導き出したいと思っている。会話の目的地が違うから、分かりあえないんだという話です。性別に関係なく、会話の目的地もスタイルも人それぞれです。この『違い』に気づくだけでも、コミュニケーションはとても楽になると思いますよ」

「だるい」でもOK。自分の言葉とスタイルを探す旅に出よう

自分の気持ちを表現するために、心にフィットする言葉を持っておくことは大切。「エモい」や「ぴえん」「だるい」などのカジュアルな言葉も、手軽に感情を伝えることができる立派な表現だと行森先生は話します。

行森先生「感情を伝えるのが難しいと悩んでいる学生は多いです。若者言葉と言われるカジュアルな表現は、そんな彼らが簡単に感情を共有することができる言語なんだと思います。親や先生にはわからないけど友達同士なら伝わる言葉……というのも、ちょっと特別な感じがして、仲が深まりますよね。自分の心を表すのにしっくりくる言葉がまだ見つからないなら、そんなカジュアルな言葉を使うのも良いと思います」

言葉を知れば知るほど、表現の幅は広がっていきます。世界中を見渡せば、自分の心をもっと気持ちよく表現できる言葉が見つかるはず。

行森先生「好きな歌の歌詞や映画のセリフから、自分が共感できるフレーズを見つけて表現方法を学んでも良いし、思いきって外国語を学ぶのも良いでしょう。『レポートだるい』と一言で言うのは楽だけど、今感じているのは本当はどんな感情なのか、もっとふさわしい言葉はないか。いろんな表現や言葉を知ることで、自分の心を細かく分類して、自分を深く理解することができるようになるかもしれませんね」

まとめ

自分の心を上手に表現するには、感情にぴったりと合う言葉と、自分らしいコミュニケーションのスタイルを見つけることが大切。もしかしたらあなたにフィットする言葉は、日本語にはないかもしれません。自分の「言葉」を探す旅に出ませんか?

取材・文:井上麻子

撮影:杉崎恭一

編集:エクスライト