悩み解消

ゆるやかにつながり、支え合う。孤独・孤立を和らげるカフェの力

誰にも頼れず、一人で抱え込んでしまう――そんな「見えない孤独・孤立」が今、社会の中で広がっています。だからこそ、安心して話ができる場所や、ふらっと立ち寄れる居場所の存在が、心の支えになることもあります。今回は、大正大学 社会福祉学科の坂本智代枝先生に、孤独や孤立への支援策や、人とのつながりを生む「カフェ」のような場の役割について教えていただきました。

ここをCHECK
  • コロナ以降、世界的に「孤独・孤立」を感じる人が増えている
  • 安心して過ごせる居場所としての「カフェ」の役割とは?
  • 若者のアイデアや発信力が、多くの人の居場所づくりにつながる

一人じゃない社会へ。孤独・孤立に向き合う取り組み

新型コロナウイルスの流行以降、世界的に「孤独」や「孤立」を感じる人が増え、社会的な問題として深刻化しています。OECD(経済協力開発機構)の報告書でも、孤独や孤立が心身の健康に悪影響を及ぼすと指摘されています。そのため、学校や地域社会の中で人とつながることが、これまで以上に重要と考えられています。

坂本先生「社会の中で特に孤立しやすいのは、一人暮らしの高齢者や、不登校の子どもたち、ひきこもりの若者などです。こうした人々の多くは、家族や経済的な支援がなければ社会とのつながりを持つことが難しく、孤立しやすい状況に置かれています」

イギリスでは、2018年に「孤独担当大臣(Minister for Loneliness)」が任命され、孤独・孤立を社会課題として捉える動きが注目されました。これを受けて、日本でも、2021年に「孤独・孤立対策担当室」が内閣官房に設置され、現在は内閣府の「孤独・孤立対策推進室」で支援体制の整備が進められています。では実際に、社会の中で孤独や孤立を感じる人々に対して、どのような支援が行われているのでしょうか。

相談窓口の設置

自治体や国の機関、NPOなどが孤独・孤立に関する相談窓口を設け、電話や対面、オンラインでの相談支援を提供しています。

デジタル技術を活用した情報発信

オンライン相談やSNSを活用した情報発信、交流促進など、外出が難しい人たちへのアプローチが強化されています。

居場所づくりの推進

若者や高齢者などが気軽に集える「居場所」を設置し、社会的なつながりを持てる環境づくりを進めています。

坂本先生「前提として、周囲からは支援が必要な孤立状態に見えても、当人が孤立を望んでいる場合もあります。見た目だけで判断してすべてを一様に解決すべき問題と捉えるのではなく、まずは本人の気持ちを尊重する姿勢が何よりも大切です。その上で、望まず孤立している人たちに向けた支援の一つとして、私たちにとって身近な『カフェ』も活躍しているんです」

話さなくても、そこにいていい。「居場所」としてのカフェが果たす力

数ある支援策の中で、坂本先生が特に重視しているのが、「居場所づくりの推進」です。人々のつながりを育む場として、現在、カフェ形式のコミュニティスペースや交流施設の運営といった取り組みが、全国的に広がっているそうです。

坂本先生「一般的なカフェは、飲み物を飲んだり、おしゃべりをしたりする場所ですよね。しかし、社会福祉の分野では、“安心して過ごせる居場所”としてのカフェの役割が注目されています。家にいるのがつらい、一人でいるのが不安、という時に、『ここに来ていいよ』『話をしなくても大丈夫だよ』と言ってくれる場所があると、人は少し安心できます」

このような「居場所としてのカフェ」の代表例が、オレンジカフェ(認知症カフェ)です。ここでは、認知症の当事者をはじめ、その家族や、関心を持つ地域住民、専門職、ピアサポーター(同じような経験をした立場から支える人)などさまざまな人が集まり、気軽に交流することができます。オレンジカフェは、地域包括支援センターやグループホームなどの施設だけでなく、スーパーや商業施設、図書館など、多様な場所で運営されています。

坂本先生「最近では、不登校の子どもやひきこもりの若者、ヤングケアラーなどを対象としたカフェも増えていますね。さらに、対面にハードルを感じる人に向けて、オンライン形式のカフェや、匿名で参加できるアバター交流など、多様なニーズに応える取り組みも進んでいます」

こうしたカフェは、心のよりどころや地域の支え合いの場として大切な役割を果たしています。中でも、次の3つの側面が重要であると、坂本先生は語ります。

1つ目は、「つながりの創出」です。居場所としてのカフェでは、他者との自然な会話が生まれやすく、それが参加者に安心感をもたらし、孤立の予防につながります。

2つ目は、「自己肯定感の回復」です。安心して過ごせる場があることで、“自分はここにいていいんだ”という実感につながります。カフェで名前を呼ばれたり、誰かに話を聞いてもらえたりすることが、自信や安心感となって積み重なっていくのです。

3つ目は、「役割を持つこと」です。お茶を出す、ワークショップに参加する、といった小さな役割を担うことによって、“自分もこの場所の一員なんだ”と感じられるようになります。

坂本先生「カフェが居場所になるのは、困り事がある人たちだけではありません。例えば、大正大学では学生による『ピアカフェ(同じような立場や経験を持つ人たちが集まり、支え合いながら気持ちを共有できる場所)』という取り組みを行っています。ここでは、1年生から4年生までが気軽に集まって、勉強や進路について話したり、相談したりすることができます。部活やサークルにあまり参加しない学生でも、こうした自由な場所なら行きやすく、新しい友だちや情報を得ることにつながります」

10代もつくれる「居場所」。優しさを行動に変えるために

「居場所としてのカフェ」は、実は10代の皆さんにとっても身近なものです。ボランティアやピアサポーターとして関わることで地域とのつながりが深まりますし、自分たちでカフェを企画・運営することもできます。SNSでの発信力がある世代だからこそ、こうした取り組みを広げ、もっと多くの人の「居場所」をつくっていけるはずです。

坂本先生「学生や住民のアイデアは素晴らしいものが多いですが、1回限りで終わってしまうことも少なくありません。取り組みを続けるには、行政や社会福祉協議会などのサポートが不可欠です。こうした組織の力を借りることで、一過性の自己満足で終わらず、地域に根付いた活動へと成長させることができるでしょう」

では、居場所としてのカフェに参加する際に、気を付けるべきことはあるのでしょうか。「さまざまな人が集まる場所だからこそ、トラブルを避けるためのルール作りが大切」だと、坂本先生は話します。

例えば、参加者同士で連絡先を交換したり、カフェの外で個人的な関係になったりすることで、問題が起きることもあるそうです。事前にみんなで話し合い、ルールを確認しておくことが、誰もが安心して楽しめる居場所を守ることにつながります。

坂本先生「社会的課題に気付き、誰かの力になりたいと思う人は、感受性が豊かな人が多いです。しかし、その優しさゆえに『自分が何とかしなくては』と、すべてを一人で抱え込んでしまい、疲れてしまうことがあります。そうならないためには、相手との間に『バウンダリー(境界線)』を持つことが大切です。誰かを助けたいという気持ちは素晴らしいのですが、その誰かの人生をすべて背負い込む必要はありません。自分自身のことも大切にすることが、長く支援を続けるために必要な姿勢です」

まとめ

「誰かの力になりたい」という気持ちは、社会を少しずつ変えていく推進力になります。つながりを広げる居場所づくりは、10代の若者にもできること。優しさを行動に変えて、無理なくできることから始めてみませんか。

取材・文:東谷 好依

撮影:杉﨑恭一

編集:エクスライト