皆さんにとって、SNSはどんなツールでしょうか。友だちとつながるために欠かせないもの? 推しのニュースを得るための手段? 今回は、SNSが楽しい理由や、SNSでむやみに傷ついたり傷つけたりしないためのコミュニケーションについて、大正大学臨床心理学科の准教授である隅谷理子先生に教えてもらいます。
- ここをCHECK
- 承認欲求は、誰もが持っている自然なもの
- 相手も自分も大切にできる人が「コミュニケーション上手」
- 自分と相手の違いを面白がることが、コミュ力UPの第一歩
SNSが楽しいのは「距離や時間を飛び越えられる」から

X、Instagram、BeReal. 、TikTokなど、いろんなSNSがありますよね。そもそも、私たちはなぜSNSを楽しいと思うのか、考えたことはありますか? その理由について、隅谷先生はこのように解説します。
隅谷先生「SNSでは、リアルで接点がない人や遠いところにいる人とも、“推し”や“趣味”を共通項にしてつながることができますよね。そのように、コミュニティの範囲を気軽に広げていける点が、SNSを楽しいと感じる理由のひとつだと思います。地域や学校などリアルな場で人間関係を作り上げるよりも、時間や労力をぐっと省エネできる点も便利ですね」 一方で、SNSにはネガティブな側面も。その一例として「承認欲求」が挙げられます。

隅谷先生「心理学では、物事を両方の側面から考えます。欲求というのは本来健康なもの。『誰かに認められたい』『愛情がほしい』といった承認欲求も、私たちが生きる上でとても自然で大切な感情なんです。ところが、承認欲求の満たし方がいびつだと、ネガティブな感情が生まれやすくなります。
SNSで言えば、自分と友達のフォロワー数を比較して不安になり、自己肯定感が下がることで、『自分が勝っていたい』『もっといいねがほしい』という気持ちが強くなります。それゆえ、1日中SNSに張り付いたり、バズを狙った過激な投稿をしてしまったりする人もいますね」
SNSでのコミュニケーションで誤解やすれ違いを避けるには?

では、SNSをコミュニケーションツールとして気持ちよく使うためには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
私たちの多くは、「コミュニケーション上手」と聞いて、人見知りをしない人や、トークが上手い人、人の話を聞くのが上手な人などを思い浮かべるでしょう。ところが、臨床心理学における「コミュニケーション上手」は、私たちが持つイメージとは少し違うようです。
隅谷先生「臨床心理学では、『自他尊重のコミュニケーション』を意識するように訓練されます。カウンセリングでは、相手の言葉の背景にある感情や事情、欲求を想像しながら対話をします。相手が話しやすいと思えるように、表情や雰囲気、話すテンポなども相手に伴走するように寄り添うのです。それは自分も相手も大切にした自己表現やコミュニケーションができないとできません」
その点、文字だけでやりとりをするSNSは、特にコミュニケーションが難しいツールと言えるかもしれません。表情や雰囲気が見えない分、語彙力や説明力が必要になり、言葉の取り違いで誤解が生まれやすい気がします。
隅谷先生「学生からよく聞くのは、友達とLINEなどでやりとりをしているときに『怒らせちゃったかな』『意図とは違う風に受け取られたかも……』と、不安になるという話。でも実際に会って話をしたら何も心配することはなかった、という経験をしたことがある人も多いようです」

では、SNSで誤解やすれ違いが起こらないようにするためには、どうすればいいのでしょうか?
隅谷先生「これはリアルでも同じですが、大切なのは、相手が理解しやすい表現をすることです。ただし、どんなに気をつけても、意図とは異なる方向に言葉を受け取られてしまうこともあります。ちょっと違う意味で受け取られていると感じたら、『自分はこんな意味で伝えたんだよ』ともう一度説明をすること。ちょっと面倒くさいかもしれませんが、そのひと手間が、誤解やすれ違いを避けることにつながります」
心理学の世界では、コミュニケーションを円滑に図るためのモデルとして「ジョハリの窓」という考え方がよく使われます。ジョハリの窓では、自己の理解と他者からの理解の幅を広げていくことが、相手との関係を深めていくことにつながると考えられています。つまり、相手に対して「自分はこんな風に考えているよ」と伝えることは、自分をオープンにする行動です。
隅谷先生「自分の感情や考えを素直に表現することって、なかなか難しいですよね。自分をオープンにするのが苦手な人は、うれしいと感じたときに『うれしい』と口に出すだけでもいいんです。SNSの場合、相手の投稿を引用して『これ好き!』『すごくわかる~』と書くことでも、自分の感情や考え方が相手に伝わりますよ」
SNSでもリアルでも。相手と自分の違いを面白がってみよう!
SNSに限らず、人とのコミュニケーションにおいて最も重要なのは、「相手とのコミュニケーションを大切にしたい、自他尊重の関係でいたいという思いをお互いに持つこと」だと、隅谷先生は話します。誤解やすれ違いが起こっても、その思いが根底にあれば、いくらでも関係を修復していけるからです。

隅谷先生「『自分を大切にしてもらいたい』『尊重してもらいたい』と思ったら、まずは自ら相手を大切にすること。そういう考え方を持っていると人間関係を維持することができるし、対人関係のトラブルが起きたときも解決に向けてポジティブに行動できると思いますよ」
この考え方は、人の言葉や態度に不用意に傷つかないためにも必要です。攻撃的な発言や態度はなかなか受け入れられないものですが、「相手にも何か考えや事情があるのかもしれない」と思えると、相手から少し距離を取って、その言葉や態度を客観的に眺められます。 そのためには、「相手と自分では物事の見え方が違う」ということを知ることから始めてみましょうと隅谷先生は話します。

隅谷先生「相手を傷つけず、自分の気持ちも大切にした自己表現のことを、心理学では『アサーション』と呼びます。このアサーションのトレーニングのひとつに、お題として出された文章をどんな風に受け取ったか、グループ内で話し合うものがあるんです。
グループのメンバーそれぞれが自分なりの価値観や色眼鏡を持っているので、話し合いではいろいろな感想や意見が飛び交います。そこで自分と違う意見があっても否定せず、『そんな風に受け取るんだ!』『その視点はなかった!』 と面白がってみること。普段の生活でも似たシチュエーションに遭遇したら、なぜそんな風に受け取ったのか、相手の考えをより深く聞いてみるといいかもしれませんね」
まとめ
SNSは使い方次第! 正しく使って自分の世界を広げよう
興味や好きなものをベースに、さまざまな人とつながることができるSNS。せっかくの便利なツールなのに「SNS疲れ」を起こしていてはもったいないですよね。言葉遣いや表現の仕方を少し工夫するだけで、コミュニケーションが深まり、自分の世界もぐんと広がっていきます。自他尊重のコミュニケーションで、SNSと楽しく付き合っていきましょう。
















