2025年冬に放送されたドラマ「御上先生」に頻繁に登場した、「パーソナル・イズ・ポリティカル(The personal is political)」という言葉。「個人的なことは政治的なこと」とは、一体どういう意味でしょうか? 今回は、大正大学公共政策学科の江藤俊昭先生に、私たちの暮らしと政治の関わりについて聞いてみましょう。
- ここをCHECK
- 18歳は大人? 成人になると自分の意思でできることの幅が広がる
- ドラマ『御上先生』から学ぶ「個人」と「政治」のつながり
- 選挙って面白いだけじゃダメ? 若者が考えるべき“政治の本質”
選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられたのはなぜ?

日本では、2016年6月に公職選挙法が改正され、選挙権を得られる年齢が「満20歳以上」から「満18歳以上」に引き下げられました。では、なぜ18歳から選挙に参加できるようになったのでしょうか?
江藤先生「直接的な要因は、2014年の『憲法改正国民投票法』改正によって、国民投票の投票権年齢が満18歳以上に引き下げられたことですが、『選挙に行ける年齢をもっと早くしよう』という議論はかなり昔からありました。その理由は、諸外国と比べて、日本の選挙権年齢が高かったからです。日本では、義務教育は中学校までですよね。つまり、15歳で学校を卒業して、社会に出る人もいるわけです。働けば税金も払います。それならば、自分の生活に関わる政治にも意見を言える権利があっていいはずですよね」
しかし、満18歳以上に引き下げられたのは「投票する権利」だけで、「立候補する権利(=被選挙権)」は現状維持のまま。若者の政治参加を促すためには、若い議員を増やすことが大切であり、被選挙権の年齢引き下げについても議論が進んでいます。
また、民法の改正によって、2022年4月からは、成年年齢も20歳から18歳に引き下げられました。 江藤先生「18歳以上は選挙に参加できる“大人”であるとされているのに、成年年齢が20歳のままではおかしいですよね。そのため、成年年齢の引き下げは当然の流れだったと思います」

成年年齢の引き下げによって、18歳や19歳でも親の同意なしにできることが増えました。例えば、18歳以上になると、賃貸物件や携帯電話、クレジットカードなどの契約が自分の意思でできるようになります。また、結婚や国家資格の取得なども可能です。
江藤先生「18歳になると大人として認められ、責任を持って自分の行動を決めることが求められますが、一部の制限は20歳まで続きます。例えば、お酒を飲んだり、タバコを吸ったりすることは、20歳からと決められています。これは、健康や安全を守るために設定されているルールです。
競馬や競輪などの公営ギャンブルも、20歳にならなければ利用できません。成年年齢が引き下げられたことで、自由にできることが増えた反面、その分、自分の行動に対する責任も大きくなったと言えますね」
選挙に行く意味って? 私たちの身近な問題と政治の関係

江藤先生「『パーソナル・イズ・ポリティカル』は行き過ぎると、私的領域に政治が介入して個人は監視・統制されるという全体主義の考え方につながる懸念があります。ですが、政治によって決められることは、私たちの生活に深く結びついているのは確かです。若い人たちが高い関心を示すSDGsやジェンダー問題はもちろん、もっと身近なこと――例えば水道を使うことや、学校に行くことも、政治とは切り離せません。そう考えると、選挙に行かないことは、むしろ不自然に思えてきませんか?」
ニュースでは「若者の投票率の低さ」がしばしば話題になります。実際、2024年10月に行われた第50回衆議院議員総選挙の投票率を見ると、10歳代は39.43%であり、全年代の中で2番目に低い水準でした。
江藤先生「年代別の投票率の推移を見てみると、今の60代の人たちの投票率は、彼らが20代だった頃からほとんど変わっていません。つまり、今のうちに若者の投票率を上げておかなければ、将来的にずっと低いままで推移してしまう可能性があるんです」
総務省と文部科学省は、高校生に選挙を考えてもらうために、『私たちが拓く日本の未来』という副教材を作成しています。教材は「解説編」「実践編」「参考編」に分かれており、「10代の皆さんには、特に『実践編』を読んでほしい」と、江藤先生は話します。
江藤先生「制度的な知識は政治経済の授業でも学べますが、重要なのは、自分たちの意見をどのように政治に反映させるかということです。『実践編』の第4章には、議会に請願書を提出する方法や、自分たちの意見が議会でどう扱われるかといったことが書かれています。 高校生でも外国籍でも請願書提出は可能ですので、教材を参考にして、地域の意見を集め、実際に請願書を提出してみてもいいと思います。自分たちも政治に参加できるという体験が、政治への関心やモチベーションを高めることにつながっていくはずです」
まだ選挙権がなくても社会は変えられる! 若者が学ぶ公共政策入門
2024年11月に実施された兵庫県知事選は、「SNS選挙」と呼ばれるほど、SNSが大きな力を発揮しました。若者の政治への関心を高め、実際に投票率アップにつながったなど、評価できる点はあるものの「本当にこれでいいのかという気持ちもある」と、江藤先生は話します。

江藤先生「マスコミやSNSを使った“劇場型政治”によって、政治が面白く見えるという側面は確かにあるでしょう。ただし、面白さだけを追っていては、政治全体を理解することはできません。
政策に絶対的な正解はなく、メリットとデメリットが必ず存在します。特定のシナリオや声の大きさに振り回されず、さまざまな視点から総合的に物事を見て、解決策を検討することが、私の専門である『公共政策』の意義です」
例えば、ジェンダー問題やハラスメントなど、昔はほとんど問題視されていなかったことが、現在では重要な社会課題として取り上げられています。公共政策の役割は、こうした課題を発見することにあります。
江藤先生「2025年1月に、埼玉県八潮市で大規模な道路陥没が起こりました。これを人ごとと捉えるか、日本中どこでも起こり得る公共施設の老朽化問題と捉えるか。私はよく“地べたの感覚”という言葉を使いますが、問題をどう捉えて、どう動かしていくか、その感性を養うのが公共政策学という学問です」

地べたの感覚を磨くための身近な方法は2つあり、1つは新聞を読むこと。もう1つは異なる意見を持った人と議論をすることだそうです。自分がほしい情報や好きな情報だけでなく、さまざまな意見を取り入れることで、多角的な視点を持てるようになると、江藤先生は言います。
江藤先生「公共政策に年齢は関係ありません。通学に時間がかかるとか、通学路が狭くて危ないとか、子どもたちが意見したっていいんです。分野によっては、むしろ若い人たちが中心になって実施していく方がいいものもありますね。 大学生はもちろん、まだ選挙権のない中高生も、公共政策においては当事者の一人です。若い人たちが主体的に動くことで、政治に関心の薄い大人の意識を変えていける可能性もあります。社会に対して自分の意見を持ち、どんどん動いていい、ということを知ってほしいですね」
まとめ
政治や公共政策と聞くと、「自分はまだ選挙に行けないから関係ない」と思う人もいるかもしれません。でも実は、政治は私たちの毎日の生活と深くつながっています。年齢や立場に関係なく、誰にでも社会を動かす力があります。難しく考えすぎず、「これって自分にも関係あるかも」と思えることから、少しずつ関心を持ってみましょう。
















