皆さんは「デジタルツイン」という言葉を知っていますか? デジタルツインとは、現実の世界をデジタルの仮想空間に再現し、そこでシミュレーションを行う技術や考え方のこと。例えば天気予報アプリは、さまざまな気象データをもとに未来の天気を予測し、地図アプリも渋滞情報などから到着時間をシミュレーションしています。そしてMinecraftのようなゲームは、デジタル空間の中で未来を先に確かめるという点で、デジタルツインに通じる部分があります。今回は、「デジタルツインとは何か?」を大正大学 情報科学部グリーンデジタル情報学科の寺村淳先生に教えていただきました。
- ここをCHECK
- マイクラも天気予報も、根っこにあるのは「デジタルツイン」
- シミュレーションの最大の敵は、私たち?!
- 何気なく使っているアプリもデジタルツインかも?
マイクラと天気予報、実はデジタルツイン的存在!

「ここに水源を置いたら、こっちに流れるはずだったのに……」Minecraft(マインクラフト)で遊んだことがある人なら、そんな“思った通りにいかない瞬間”を一度は経験したことがあるかもしれません。建築する前に仮配置してみたり、ベッドを増やして村人がどう動くか観察したりする時間も、Minecraftの楽しみですよね。
実は、その何気ない行動の中には、現実の街づくりや防災、環境対策などの分野で真剣に活用されている考え方が隠れています。それが「デジタルツイン」。現実の世界をデジタル空間に再現し、未来を先に試してみる技術です。
Minecraftとデジタルツインの共通点は、デジタル上で現実そっくりの空間を構築し、自分の意図した形に改変できるところ。国土交通省がマイクラを使ってダムを再現している例もあります。
寺村先生「現実の街づくりにも、デジタルツインは活用されています。新しい建物を建てたら景観がどう変化するか、3Dモデルでシミュレーションするんです。そのプロセスはMinecraftでの街づくりに近いですね」
Minecraft以外にも、デジタルツインの技術や考え方が活用されているツールはたくさんあります。事例を見てみましょう。
①地図アプリ
地図アプリは現在の交通情報を読み込み、仮想空間上で「今どこが渋滞しているか」をシミュレーションし、そのデータをもとに到着時間を予測します。
②天気予報
地球規模での空気の流れなど、気象に関するさまざまな情報をデジタルの世界に読み込ませ、未来の気象を予測しています。
③現実の街を舞台にしたゲーム
現実の都市を精密に再現したオープンワールドゲームも人気です。2019年にパリのノートルダム大聖堂が火災にあった際、あるゲームの中に登場するノートルダム大聖堂の精巧なモデリングが再建に役立つのではと注目されました。
④試着シミュレーション
自分の体型をデータ化して、オンライン上で服のサイズを確認できるツールがあります。髪型やメガネが自分の顔に似合うか、画面上でシミュレーションすることもできます。
寺村先生「普段の学校生活にも、デジタルツインの考え方を応用できる場面があふれています。例えば、売店のパンがいつ売り切れるかをリアルタイムで予測するとか、図書室の本の在庫状況をリアルタイムで知れたら、ちょっと便利で面白いですよね」
結果がズレる最大の原因は人間?! あらゆる“もしも”を見せてくれるデジタルツイン

デジタルツインの技術は、さまざまな企業でも取り入れられています。例えば自動車業界。車の衝突実験など、現実で行うには危険でコストがかかる実験も、デジタルツインを使えば安全に低コストで行うことができます。
また、デジタル上では何万回でもシミュレーションを繰り返すことが可能。たとえ実験に失敗したとしても、それは「この方法ではうまくいかない」というデータを集めることになるため、失敗が成功への糧になるのです。
寺村先生「デジタルツインの世界では、実験に失敗したら失敗したぶんだけデータが集まります。『失敗が怖い』という人もいるかもしれませんが、失敗そのものはまったく悪いことではありません。デジタルツインの研究においては、むしろ何もしないことが一番良くないのです」
シミュレーションや実験においてとても便利なデジタルツイン。しかし、ときには現実の再現がうまくいかず、デジタルと現実がズレてしまうこともあります。そんなときは、現実とデジタルの間にある“ズレ”を見つけ、それを一つずつ地道に埋めていきます。“ズレ”の原因を突き詰めることで、まだ解明されていない新しい力学や物理現象の発見につながることもあるのだとか!
寺村先生「現実とデジタルがズレてしまう要因として最も大きいのは、人間の行動です。私たちは、時に感情に流され非合理的な判断をしたり、突拍子もない行動を取ったりします。人間は機械のように決まった動きをしないので、デジタルツインでのシミュレーションにズレが生じやすく、未来を予測することがとても難しいのです」
人類の地道な努力によってどんどん精度を高めてきたデジタルツイン。そんなデジタルツインの技術は、どのように社会に活用されているのでしょうか。事例を紹介します。
国土交通省の「PLATEAU(プラトー)」
国土交通省が進めている「PLATEAU」というプロジェクトでは、都市の地形情報を精密にデータ化。例えば、現実には観測されたことがない「1時間に500mm」という猛烈な雨を仮想空間で降らせ、道路の陥没やビルの浸水、建物の転倒リスクなどを予測することが可能です。
距離を超えた遠隔手術
医療分野では、デジタルツインによって物理的な距離の壁がなくなろうとしています。今後ますます技術が発展すれば、例えば「東京にいる外科医が離島にいる患者を遠隔操作ロボットで手術する」ことも可能になるでしょう。外科医の手の動きをロボットが正確に再現することで、離島やへき地でも高度な医療を受けられる未来がすぐそこまで来ています。
寺村先生「私自身は、鹿児島県・喜界島にある古い集落をデジタル化する活動も行っています。デジタルツインによって、体が不自由で旅行ができない人でも、まるで本当に喜界島を散歩しているかのような体験ができるのです」
パソコン1台で踏み出せる、デジタルツインの世界

専門の機械がなくても、パソコン1台あればある程度実装できるのが、デジタルツインの面白いところのひとつ。ネットで調べれば、最初のステップはすぐに分かりますよ。
寺村先生「最近では、ゲームを通じてデジタル空間に慣れ親しんできた学生が、デジタル空間の実世界への適用技術としてデジタルツインに興味を持つようになっています。プログラミングの深い知識がなくても、AIに相談しながら形にする学生もいるようです。『失敗してもいいから自分でやってみよう!』と思える人は、きっとこの分野で活躍できますよ」
最後に、「デジタルツインが当たり前になった未来」とはどのようなものなのでしょうか。
寺村先生「未来では、デジタルツインは特別な技術ではなく、誰もが当たり前に使いこなす便利な道具になっています。現在でも、私たちはGoogleマップの到着予測を使いながらそれがデジタルツインであることを意識していませんよね。それと同じように、将来のあらゆるサービスが、生活にすっと溶け込んでいるのが理想です。人々が意識せずとも『以前より安全で便利になったな』と感じられる状態こそが、デジタルツインが真に発展した世界といえるでしょう」
まとめ
Minecraftや天気予報、地図アプリなど、私たちの身近でも活用されているデジタルツイン。あなたの一番近くにあるデジタルツインは何でしたか? 私たちが毎日使うアプリや友達と遊んでいるゲームの中に、デジタルツインの考え方がもっとたくさん使われているかもしれません。まずは「あ!これデジタルツインかも!」と発見することを楽しんでみてくださいね。
















