グループワークの時に、「うまく話せない」「何を話せばいいのか分からない」と戸惑うことはありませんか。実は、話しやすさは性格や話術だけで決まるものではありません。教室のレイアウトや道具の使い方など、環境を少し工夫するだけで、自然と会話が生まれやすくなります。
今回は、ヒューマンインタフェースを専門とする大正大学 デジタル文化財情報学科の伊賀彩子先生に、「人が話しやすくなる場の仕組み」について伺いました。
- ここをCHECK
- グループワークで話せないのは、環境に原因がある?
- 世の中には「人を行動に導く仕掛け」があふれている!
- コミュ力に頼らず、話しやすい場をつくるには?
話しやすさは「環境」で変えられる

グループワークが始まったのに、誰も話し出さず、気まずい沈黙が続いてしまった経験はありませんか? そんな時、「コミュニケーションが苦手」「もっと積極的に話さないと……」と、自分を責めてしまう人もいるでしょう。
しかし、伊賀先生によると、その原因は、必ずしもコミュニケーション能力にあるわけではないそうです。
伊賀先生「沈黙が起きる本当の理由は、『誰が最初に話せばいいのか分からない』『発言するきっかけがない』といった、場の設計の問題であることも少なくありません。参加したい気持ちがあっても、何をすればいいのか分からなければ、人は最初の一歩を踏み出しにくくなります。
ヒューマンインターフェースの視点から見ると、沈黙は個人の欠点ではなく、環境や仕組みを工夫する余地があるサインとして捉えることができます」
「インターフェース」と聞くと、スマホやパソコンの画面といった「ユーザーインターフェース」を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、「ヒューマンインターフェース」の意味はもっと広く、人と環境、人と人とをつなぐ「関わりの接点」を指します。
例えば、教室の机の並べ方やホワイトボード、駅の案内表示なども、すべてヒューマンインターフェースの一つです。私たちは普段、こうした環境から情報を受け取り、それを手がかりに行動しています。
伊賀先生「知覚心理学者のジェームズ・ギブソンは、環境が生物に提供する行動の可能性を『アフォーダンス』と呼びました。例えば、人にとって階段は『上れる』、木の枝は『つかめる』といったように、環境そのものが行動の可能性を備えているという考え方です。
さらに、ユーザエクスペリエンスや人間中心デザインの発展に大きく貢献したドナルド・ノーマンは、このアフォーダンスの考え方をデザインに応用しました。そして、ユーザーに『ここを押す』『ここを引く』といった操作方法を分かりやすく伝えるための手がかりを『シグニファイア』と呼びました。例えば、自動ドアの前に足跡のマークを描いて立ち位置を示したり、エレベーターのボタンを盛り上げて光で目立たせたりするデザインは、いずれもシグニファイアの例です。
ヒューマンインターフェースの研究では、人が環境からどのように意味を読み取り、どんなきっかけで行動するのかを理解し、その関係をより良くデザインすることを目指しています」
ゲームのコントローラーや自販機にも? 身近にあふれる「行動したくなる仕掛け」

環境が私たちの行動を自然に導いている例は、身近なところにもたくさんあります。
例えば、ゲームのコントローラーです。ボタンの配置や手になじむ形によって、初めて触る人でも「ここを押せば操作できそう」と直感的に分かるよう工夫されています。
自動販売機も同じです。私たちは自販機の前に立つと、わずか30秒ほどで飲み物を選び、購入できます。これは自販機が、私たちが頭の中に持っている「概念モデル」に沿って設計されているからです。私たちは経験を通して、「ボタンに膨らみがあれば押せる」「赤は温かい、青は冷たい」といった共通のイメージ(概念モデル)を身に付けています。
こうしたヒューマンインターフェースの考え方は、デジタル機器だけでなく、日本の伝統文化にも見ることができると、伊賀先生は語ります。
伊賀先生「私自身は茶道をたしなんでいますが、『茶会』はとても洗練されたヒューマンインターフェースだと考えています。言葉で説明しなくても、人の行動を導く工夫が数多く取り入れられているからです。
例えば、茶室の入り口である『にじり口』は低く作られているため、人は身をかがめて入ります。その動作によって、『ここから先は日常とは違う特別な空間なんだ』という気持ちへ切り替わります。
茶室に入ると、お客さまは掛け軸や季節の道具を見ながら、『今日はどんなテーマの茶会なのだろう』『亭主(茶会の主催者)はどんな思いでこの場を用意したのだろう』と考えます。空間や道具、しぐさ、作法を通して互いに情報を受け取り、その場をみんなでつくり上げていくのです」

伊賀先生は、このヒューマンインターフェースの考え方にデジタル技術を組み合わせ、人と人とのコミュニケーションをより豊かにする研究を進めています。その一つが、会話を音声認識で切り出し、画面に表示した後、時間とともに少しずつ消えていくシステムです。
伊賀先生「グループワークでは、会話が止まると『何か話さなければ』と焦ってしまうことがあるでしょう。しかし、それまでの会話から切り出された言葉が画面に表示されていれば、それを手がかりに『この話をもう少し深めてみよう』と考えやすくなります。
今この場で何が話されているのかを参加者全員で共有すると、『自分が面白いことを言わなければ』というプレッシャーではなく、『今ここにある言葉をどう発展させようか』と考えられるようになります。つまり、次の行動の手がかりが生まれるのです」
会話が苦手でも大丈夫。話しやすい場をつくるヒント

グループワークで気まずい沈黙が続いてしまった時、ヒューマンインターフェースの考え方を生かして、すぐに実践できる方法はあるのでしょうか。
伊賀先生「『自由に話してください』と言われても、何から話せばいいのか分からず、困ってしまうことがありますよね。そんな時は、紙に考えを書き出したり、図やイラストを描いたりして、みんなで同じものを見ながら話すと、会話が生まれやすくなります。
また、スマホのルーレットなどを使って発言する順番を決めるのも手です。自分から切り出すのは緊張しても、『ルーレットで当たったから』という理由があれば、意外と話しやすくなります。スマホがなければ、代わりにシャーペンを回してもいいですね」
ヒューマンインターフェースで大切なのは、人の意識を変えることではなく、人が行動しやすい環境を整えることです。
伊賀先生「有名なテーマパークに遊びに行った時に、『どうして初めて来た人でも迷わず動けるのだろう』と考えてみてください。周りをよく観察すると、人が自然に行動できるよう工夫されたデザインが、きっとたくさん見つかるはずです」
まとめ
私たちは普段、道具や建物など、さまざまな環境から行動のヒントを受け取っています。「どうしてこの形になっているのだろう」「なぜ使いやすいのだろう」と考えながら身の回りを観察してみると、それまで気付かなかった工夫が見えてくるかもしれません。


















