急行で通り過ぎてしまう駅に、降りてみたことはありますか? 「何もなさそう」と思っていた駅でも、実際に歩いてみると、気になる店や思わず写真を撮りたくなる風景に出会えることがあります。今回は各駅停車(普通列車)の停車駅の周辺地域の魅力や歩き方について、大正大学 地域創生学科の鶴指眞志先生に教えてもらいましょう。
- ここをCHECK
- 地域の魅力は、外部から再発見されることも
- 街歩きでは「建物・道・人」に注目すると面白い!
- 小さな「なぜ?」の深掘りで、歴史や魅力がより分かる!
「何もない」わけじゃない? 各駅停車駅に眠る街の魅力

「各駅停車しか停まらない駅」と聞くと、「店が少なく移動も不便そう」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、そうした駅の周辺には、急行が停まる駅とは一味違う魅力や暮らしやすさがあるといいます。
鶴指先生「都市部の各駅停車の停車駅の中には、住宅地や商店街、公園、学校など、人々の暮らしを支える環境が広がっている駅があります。繁華街のようなにぎやかさはありませんが、落ち着いた住環境や、生活に必要なものがコンパクトにまとまっていることも魅力の一つです。
一方、地方の各駅停車駅では、列車の本数の少なさや店舗の乏しさが課題になることもあります。しかしそこには、豊かな自然や美しい景観、地域の人々との触れ合いなど、ターミナル駅にはない独自の魅力を持つ駅も存在します」
近年、こうした各駅停車駅周辺の街の魅力が、地域外から訪れる人々によって再発見されるケースが増えてきました。特に、外国人観光客が街の魅力をSNSで発信し、それを見た人がさらに現地を訪れるという流れが広がっています。人が集まることで新しい店ができるなど、元々あった地域の価値がより高まっていくという好循環も生まれています。
鶴指先生「その一例が、小田急線の豪徳寺駅(東京都)です。駅前に商店街があり、少し歩くと住宅街が広がる各駅停車駅ですが、近くにある豪徳寺には『招き猫発祥』にまつわる伝承があり、多くの観光客が訪れるようになりました。それに伴い、商店街にも招き猫にちなんだ商品を扱う店が増えるなど、地域の歴史や文化が街の魅力づくりに生かされ、新しいにぎわいを見せています」
こうした魅力の再発見は、都市部に限りません。例えば「日本で一番海に近い駅」の一つとして知られるJR予讃線の下灘駅(愛媛県)は、映画やポスターのロケ地になったことで注目を集めました。周辺には海を眺められるカフェや地元の食材を楽しめる飲食店が増え、地元ボランティアが駅の花壇に季節の花を植えるなど、美しい景観を守る取り組みも続いています。

このように、地域の魅力が外部から評価されることは、そこに暮らす人々の気持ちにも良い変化をもたらします。
鶴指先生「自分たちの街が外から評価されることで、住民が地域の魅力を改めて認識し、『私たちの地域はこんなに素晴らしいんだ』という誇り、いわゆる“シビックプライド”が芽生えるきっかけにもなります。地域への誇りは、この街に住み続けたいという愛着や、地域活動に参加してみようという行動にもつながっていきます」
小さな「なぜ?」を探そう! 各駅停車駅の歩き方

各駅停車駅の魅力を見つけるには、どんな視点で街を歩けばいいのでしょうか。鶴指先生は「この街では、どのような暮らしが営まれているのだろう」と想像することが大切だと話します。
鶴指先生「おすすめしたいのは、建物・道・人の3つに注目する歩き方です。駅を降りたら、まず周辺にどんな建物があるかを観察してみてください。住宅が多いのか、商店街や学校があるのかを見るだけで、そこが買い物客の集まる街なのか、住民の生活を支える街なのかが分かります。
次に、道の形に注目します。歩いていると、不自然に曲がっていたり、急に細くなったりする道がありますよね。実は、そこに街の歴史が隠れています。曲がった道は、鉄道が走る前の古い道や、昔の地形に沿って作られた道の可能性があります。昔の地図と見比べてみるのも面白いですよ。
そして、もう一つ重要なのが『人』です。通勤中の人、学校帰りの高校生、家族連れや高齢者など、どんな人が歩いているかを観察すると、その街でどんな人たちが暮らしているのかが見えてきます」
朝は通勤や通学、昼は買い物、夕方は帰宅と、時間帯によっても街の表情は変わります。人がただ通り過ぎるだけなのか、それとも店の前や公園などで立ち止まって過ごしているのかにも注目してみましょう。人通りが多いことだけでなく、人々が安心して過ごせる空間があることも、その街の魅力です。
鶴指先生「街歩きで大切なのは、ちょっとしたことにも『なぜだろう?』と疑問を持つことです。例えば、豪徳寺の商店街は、途中で街灯のデザインが変わります。これは、商店街を管理する商店街の組合がそこで切り替わっているサインです。こうした発見も、街歩きの面白さにつながります。
また、その地域にしかないものを探すことも、街の魅力を見つけるポイントです。例えば、三重県四日市市には、船を通すために橋の一部が動く『可動橋』という珍しい橋があります。地域産業について調べると、陸と船の交通を両立させようとした歴史が見えてきます。
学びの基本は、こうした小さな疑問を掘り下げていくことにあります。背景にある理由まで分かれば、街の魅力や価値を自分の言葉で発信できるようになるはずです」
歩いて、調べて、伝えてみる! 街の魅力を見つけて、届けるための第一歩とは

では、鶴指先生の専門分野である「地域経済学」の視点から各駅停車駅を眺めると、どんな発見があるのでしょうか。
鶴指先生「地域経済学の面白さは、人や店がなぜその場所に集まり、地域の中でどう動いているのかを考えることにあります。まずは、土地の価格や家賃に注目してみましょう。そこには駅からの距離だけでなく、買い物の便利さや住みやすさ、景観など、その街に対する評価が反映されています。
また、『なぜここに商店街があるのか』を考えることも大切です。駅から住宅地へ向かう人の流れや、昔の街道、寺社への参道など、人が集まりやすい場所に店が作られてきた歴史が見えてきます」
街を歩いて観察してみると、その地域の課題が見えてくることもあります。例えば、地方の各駅停車駅の周辺には、人口減少や高齢化、郊外での大型店舗の展開などによって、空き店舗や空き家が増えているという側面があります。
その一方で、空き店舗や空き家は、新しい店や交流の場に生まれ変わる可能性も秘めています。一例として、各駅停車駅そのものの事例ではありませんが、JR鹿児島本線の荒尾駅(熊本県)では、駅舎の一部時間帯無人化に伴い、駅舎内にコミュニティスペースを設け、人が集まる場所として活用する取り組みが行われています。
鶴指先生「こうした事例のように、地方の駅やその周辺地域には、交流拠点としての高いポテンシャルがあります。この記事を読んで各駅停車駅に興味を持ったら、まずは普段使っている路線で、まだ降りたことのない駅を訪れてみてください。あるいは、ゲーム感覚で行き先を決めるのもおすすめです。多くの路線では各駅に『駅番号』が振られているので、サイコロを2〜3個振って、出た目の駅に向かうのも楽しいでしょう。
実際に歩いてみて、地域の課題に気づいたら、住んでいる人やお店の人から話を聞いてみてください。高校生なら、地域の祭りやボランティアに参加するのもいいと思います。地図アプリでは分からない街の空気感や人の流れなど、歩いてみるからこそ気づけることがきっとあるはずです」
気になった街を歩き、疑問に思ったことを調べ、自分の言葉で伝えてみる。そんな小さな行動が、誰かに魅力を届け、地域のファンを増やすきっかけになるかもしれません。
まとめ
各駅停車駅には、急いでいると見過ごしてしまう魅力がたくさんあります。「面白い!」「なんでだろう?」という直感を大切に、ぜひ気になる街を歩いてみてください。知らない駅で降りて少し散策してみるだけでも、面白い道や素敵な店など、思いがけない出会いがあるかもしれません。


















