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『ウィトゲンシュタイン「秘密の日記」――第一次世界大戦と「論理哲学論考」』刊行のご案内

みなさんこんにちは、コンシェルジュの岩下です。

大正大学人文学科の星川啓慈先生が企画・執筆した『ウィトゲンシュタイン「秘密の日記」――第一次世界大戦と「論理哲学論考」』が、4月29日に春秋社より刊行されます。

刊行にさきがけて、星川先生よりこのブログにコメントをお寄せいただきました!

『ウィトゲンシュタイン「秘密の日記」――第一次世界大戦と「論理哲学論考」』の出版によせて


L・ウィトゲンシュタインという、1889年にウィーンに生まれ1951年にイギリスで亡くなった、天才哲学者がいます。今年は、彼の『秘密の日記』(『日記』)の最終部分が書かれて100年目の年にあたります。

この『日記』は、彼の哲学や人間性を理解するうえで第一級の資料です。しかし、我が国ではほとんど読まれていません。英訳すらも未だに出版されていません。
Wittgenstein


この『秘密の日記』について、いくつか興味深い話をしましょう。

  1. この『日記』は第一次世界大戦のさなかで書かれました。ウィトゲンシュタインは『論理哲学論考』という哲学上の傑作を、度重なる戦闘の合間に書いたのですが、その本の執筆の舞台裏が手に取るようにわかります。つまり、ウィトゲンシュタインが自分の「生=人間関係」「聖=宗教」「性=欲望」について、赤裸々に書いているのです。

  2. この『日記』は「暗号体」で書かれています。「暗号」といっても簡単です。「A」と「Z」が対応し、「B」と「Y」が対応するというものです。五十音でいうと、「あ」と「ろ」、「い」と「れ」が対応するというものです。ですから、「あいうえお」は「ろれるりら」となるわけです。なんと、ウィトゲンシュタインは普通の文体で文章を書く速さで、この暗号体の文章を書くことができました。それは滑らかな筆跡からわかります。


  3. ウィトゲンシュタインが書き残したものに、『草稿1914-1916』というものがありますが、今回出版した『日記』は、この哲学的文書と同じ1冊のノートに書かれていました。つまり、ウィトゲンシュタインは右側のページに哲学的な事柄を、左側のページに個人的な事柄を書いていたのです。右側のページは早い時期(1960年)に出版されました。しかし、左側のページは彼自身や周りの人々のプライバシーにいろいろと関わるので、長い間、出版されませんでした。ウィトゲンシュタインの遺稿を管理している人たちは、左側のページ、つまり『秘密の日記』というものがあることすら隠していました。しかし、今回は、訳者の丸山氏がウィトゲンシュタインの暗号体の直筆(手稿)を参照しながら、「世界初の完全な形」で翻訳しました。これは、非常に重要な仕事で、今後、日本の読者に歓迎されるでしょう。

  4. この『日記』は、軍事や哲学にかんする知識なしには読めません。そこで、石神氏と私が、『日記』そのものより長い「哲学と軍事にかんする解説」を書きました。これも今回の本の特徴です。本の目次を載せましたから、見てください。本書は、哲学者はいうまでもなく、宗教学者、文学者、心理学者、精神医学者、軍事研究者などにとっても貴重な資料となるでしょう。さらに、一般読者にとっても、20世紀を代表する天才哲学者が、数々の激しい戦闘(第一次世界大戦における諸戦)のなかで、主著『論理哲学論考』を執筆した舞台裏は、興味深いドラマに違いありません。

19160711

▲星川が第7章で議論を展開した、『草稿』にある問題の書付の日付:「1916711日」 (赤丸)。

ベルゲン大学所蔵の「ウィトゲンシュタイン・ペーパーズ」から。撮影:渡辺隆明氏

 ウィトゲンシュタイン『秘密の日記』

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著者 L・ウィトゲンシュタイン
タイトル 『ウィトゲンシュタイン「秘密の日記」――第一次大戦と「論理哲学論考」』
企画 星川啓慈(大正大学人文学科教授)
翻訳 丸山空大(東京工科大学非常勤講師)
哲学関係の解説 星川啓慈
軍事関係の解説 石神郁馬(軍事研究家)
編集 小林公二
装丁 本田進
出版社 春秋社
ISBN978-4-393-32366-3
本体価格2,800円+税 
四六判 
総頁数 304頁


【主要目次】

ウィトゲンシュタイン『秘密の日記』――1914年8月9日~1916年8月19日
    丸山空大 [訳]
  第1冊 1914年8月9日~1914年10月
  第2冊 1914年10月30日~1915年6月22日
  第3冊 1916年3月〔28日〕~1916年8月19日

テクストについて                        丸山空大

解説――戦場のウィトゲンシュタイン        星川啓慈・石神郁馬
 第1章 第一次世界大戦
    [コラム] 大砲と臼砲
  第2章 東部戦
   [コラム] 探照灯
    [コラム] 一年志願兵
   [コラム] 小型砲艦「ゴプラナ」
  第3章 トルストイの『要約福音書』
   [コラム] 機関銃の歴史
  第4章 『論理哲学論考』と「撃滅戦」
   [コラム] 奇襲・突破・撃滅
  第5章 ブルシーロフ攻勢前夜
   [コラム] 弾幕射撃 
 第6章 ブルシーロフ攻勢の激闘
 第7章 『草稿一九一四-一九一六』 
 第8章 一九一六年の暮れから捕虜になるまで 
   [コラム] ウィトゲンシュタインと「褒章」
 エピローグ

なお、星川先生の最近の業績については下記のページでもご紹介しています。あわせてご覧ください。


ぜひたくさんの人にお手に取っていただきたいと思います。
それでは、また。

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