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綜合仏教研究所

【開催御礼】 公開講座 「チベットにおける秘密集会成就法:チベット仏教で尊重されるタントラにもとづく生起次第の実践」

綜合仏教研究所では、4月22日にヤエル・ベントール先生(エルサレム・ヘブライ大学)をお迎えし、標記の講座を開催いたしました。

以下、松本恒爾研究員の報告レポートです。

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去る4月22日、総合仏教研究所は、ヘブライ大学のヤエル・ベントール(Yael Bentor)先生を公開講座の講師としてお招きいたしました。先生のご専門はインド・チベットにおける密教儀礼で、著作には以下のようなpratiṣṭhārab gnas)儀礼(consecration、聖別、日本でいうならば開眼供養)に関するものや、中級のチベット語の読本などがあります。

 

  • Consecration of Images and Stūpas in Indo-Tibetan Tantric Buddhism Brill 1996
  • A Classical Tibetan Reader Wisdam Publications 2013

 

 さて、ベントール先生には Guhyasamāja Sādhana in Tibet: The practice of the creation stage according to a Tantra highly regarded in Tibetan tradition” 「チベットにおける秘密集会成就法: チベット仏教で尊重されるタントラにもとづく生起次第の実践」というタイトルでご講義いただきました。

 内容としては、サキャ・パンディタ(Sakya paṇḍita、 1182-1251)、プトゥン(Bu ston、 1290-1364)、レンダワ(Red mda’ ba、 1349-1412)、 ツォンカパ(Tson kha pa、 1357-1419)などのチベット仏教諸派の祖師たちに言及しつつ、彼らがどのように『秘密集会タントラ』の成就法を実践し、また、自身の成就法の権威をいかに主張していたかというものでした。

 インドにおける『秘密集会タントラ』の成就法の流派は、ブッダシュリージュニャーナ(Buddhaśrījñāna)、別名ジュニャーナパーダ(Jñānapāda)を祖とする智足流(Ye shes zhabs lugs)とアールヤナーガールジュナ(Ārya-Nāgārjuna、いわゆる『中論』の作者とは別人であるナーガールジュナ)を祖とする聖者流(’Phags lugs)のおよそ二つの流派に分けられます。そして、チベットにおける『秘密集会タントラ』の成就法も基本的にこれら二つの流派に基づいており、ツォンカパなどは自身が重視する聖者流の系譜に、中観派の系譜をも重ね合わせて自身の成就法の権威を主張しているとのことでした。

 会場には、本研究所所長の野口圭也先生をはじめとする密教の専門家が大勢いらっしゃり、講義の後の質問は大いに賑わいました。大変興味深かったのは、聖者流を専門とされている、人文情報学研究所主席研究員の苫米地等流先生のご質問でした。

 その質問は、聖者流のテキストにおいては「空性」(śūnyatā、stong pa nyid)と「空」(śūnya、 stong pa)が意図的に区別されているようであるが、聖者流を重視する講義中に言及されたチベット仏教の祖師たちはこのことを意識しているか、というものです。この質問に対して、ベントール先生はチベット仏教の祖師たちはあまり意識していないのではないかとのことでした。

 このように綜合佛教研究所の公開講座は、研究の第一線でご活躍されている先生の最新の研究に接することができ、様々な考えるきっかけを与えてくれる大変有意義なものです。予約不要、しかも無料で参加できるので、是非皆様ご参加下さい。

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ご来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

綜合仏教研究所事務局

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