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綜合仏教研究所
【開催御礼】公開講座「Identifying Individual Voices in Collective Translations of Chinese Buddhist Scriptures」
綜合仏教研究所では、2023年10月11日(水)にハイデルベルク大学教授・東京大学東洋文化研究所客員教授のマイケル・ラディッチ先生を講師にお迎えし、公開講座を開催いたしました。
以下、伊久間 洋光 非常勤講師(大正大学)の報告レポートです。
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2023年10月11日、綜合仏教研究所では、ハンブルク大学教授・東京大学東洋文化研究所客員教授のマイケル・ラディッチ先生をお招きし、” Identifying Individual Voices in Collective Translations of Chinese Buddhist Scriptures”と題しご講義頂きました。以下、ご講義の概要を参照しながらご報告いたします。
よく知られているように、中国の仏典の翻訳はしばしば集団で行われました。最近の研究では、文体の内部的な証拠(翻訳用語や言い回し)を使って、異なる翻訳グループの作品を区別できることがわかってきました。つまり、グループ文体というものが存在するのです。しかし、そのようなグループ内の個人の貢献(または「声」)も区別できるのかという疑問が当然生じます。ご講義では、竺佛念、Kumārajīva, Paramārtha真諦のコーパスを例にとりながら、この疑問について検討頂きました。
ご講義では、先生のなされたケーススタディより、書簡などから用例を収集する方法論に基づき、廬山の慧遠とKumārajīvaの個人の文体(「声」)を抽出しようとする試みをご紹介頂きました。その結果、興味深いことに、Kumārajīvaの「声」は確立した仏教用語・翻訳語が多く特定困難であるものの、廬山の慧遠の文体は中国古典に基づいた言い回しが多用されており、仏教者の文体としてはかなり特徴的であるということでした。
また、先生が支謙訳とされる『維摩詰経』を調査した結果、代表的な竺法護訳の経典である『正法華経』や『光讃経』と比べても竺法護の特徴が強くみられるものの、一方で支謙訳の語法もある(内容の一部を2019年に中国語論文として出版、今後英語版の出版を予定とのこと)ということです。
また先生は、同僚のプログラマーJamie Norrish氏と共に開発した “TACL “と呼ばれる革新的なソフトウェア・ツールを使用し、竺法護訳のコーパスを集成するプロジェクトを進めておられます。今後はさらに、Paramārtha真諦のコーパスを集成するプロジェクトなどを予定されているということです。
ご多忙の中、最新の漢訳研究について貴重なご講義を頂戴したマイケル・ラディッチ先生に深く感謝申し上げます。
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貴重なご講義を賜りましたラディッチ先生とご来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。
綜合仏教研究所では、今後も研究の第一線で活躍されている先生方を講師としてお呼びする予定です。
予約不要・参加費無料ですので、皆様ぜひ、ふるってご参加ください。
綜合仏教研究所事務局