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綜合仏教研究所

【開催御礼】特別講座「The Tantric Transformation of India’s Religions during the Early Medieval Period」

綜合仏教研究所では、オックスフォード大学 名誉教授のアレクシス・サンダーソン 先生を講師にお迎えし、全5回の特別講座を開催いたしました。

 以下、児玉 瑛子 研究生の報告レポートです。

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 綜合仏教研究所では,タントラ研究の碩学であられるアレクシス・サンダーソン先生(オックスフォード大学名誉教授)をお招きし,全十回の特別講座を開講しました.
 今回の講座 “The Tantric Transformation of India’s Religions during the Early Medieval Period” では,前半をシヴァ教の歴史的展開,後半をシヴァ教から他宗教への影響という二つのテーマに分け,未校訂の文献も含む写本資料や,碑文資料などにもとづきながら,サンダーソン先生の長年のご研究の成果をお話しいただきました.

 まず,前半五回の講座でサンダーソン先生は,シヴァ神崇拝者の宗教的実践と信仰がどのように出現し,宗教体系として発展したのかという点について,シヴァ教の起源とその主要な形態である超道(Atimārga)・マントラ道(Mantramārga)・クラ道(Kulamārga),そして在俗シヴァ信仰の解説を通してお示しくださいました.
 入門式を受けた出家修行者が解脱を目指すための超道には,最古の獣主派(Pāśupata),そこから派生したラークラ派(Lākula),カーパーリカ派(Kāpālika)という三つの発展段階があります.それに対して,現世利益的な目標をも掲げるマントラ道では,出家修行者と家長が主体となります.より後代に発展したクラ道の聖典は,反バラモン的性格をマントラ道のうちの一派と共有するものの,独自の儀礼形式をもつ点では大きく異なるとのことです.サンダーソン先生の最新の見解によれば,このクラ道における独自の儀礼形式は,超道のカーパーリカ派から継承されたものであるといいます.

 以上のようなシヴァ教の通時的展開を扱った前五回の講座を承け,今度は他宗教との関係が論じられました.後半五回の講座でサンダーソン先生は,王族からの後援におけるシヴァ教の主な競争相手であった諸宗教に関し,そのタントラ文献の成立・展開にシヴァ教がどのような影響を与えたのかという点を,ヴィシュヌ教・サウラ派(太陽神教)・ジャイナ教・仏教の文献を取りあげながらお示しくださいました.
 たとえば「シヴァ教と仏教」を主題とした最終回では,仏教タントラ文献に見られる儀礼のマントラ道とのパラレルをはじめ,日本密教でも重要視される『大日経』(Mahā­vairocaṇā­bhi­saṃbodhi)や『初会金剛頂経』(Sarva­tathā­gata­tattva­saṃgraha)を含む非常に多くの文献との関連が指摘されました.さらには,密教のみならず,仏教論理学のダルマキールティの著作にも,マントラ道に属するタントラ文献の名が言及されるなど,シヴァ教の影響力の大きさを強く感じました.

 このように,大変豊富な資料と,先生のこれまでの著書・論文の内容をさらにアップデートされた講義には毎回圧倒されました.今回の講座を通じて多くの知見を得られたことはもちろん,さまざまな分野の文献を精確に読みこなす力を身につけ,地道にひとつひとつの文献と向き合っていくことの重要性を改めて認識することができました.大変貴重な講義を十回にもわたって賜りましたサンダーソン先生に,心よりお礼申しあげます.

 

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貴重なご講義を賜りましたサンダーソン先生と
ご来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

綜合仏教研究所では、今後も研究の第一線で活躍されている先生方を講師としてお呼びする予定です。
予約不要・参加費無料ですので、皆様ぜひ、ふるってご参加ください。

綜合仏教研究所事務局

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