学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

仏教学コース

特別企画「学びの探索 教員版」第7回 木内堯大先生

公式Facebookページ開設を記念して、学科教員の研究の紹介や教員になった経緯などを紹介する企画です。
大学HPの教員紹介よりも一歩踏み込んだ内容となっております。
高校までには居なかった、専門分野において突出した知識や経験を持つ仏教学科の先生たちを余すことなく紹介します。

学びの探索 教員版 №7
※「学びの探索 教員版」では、学科教員の研究の紹介や教員になった経緯などをご紹介します。
第7回は仏教文化遺産コースの木内堯大先生です。


📜📜千里の道も一歩から 📜📜
📕はじめに📕
私の自坊は、東京の墨田区にあり、関東大震災の時に燃え残った材料で作ったという、雨もりがするような小さくて古めかしいお寺でした。
父が大学教員だったこともあって、その狭いスペースには、ひしめくように多くの本があり、本に生活環境を圧迫されながら育ってきました。友達がみんな持っていて、自分も欲しくてたまらなかった超合金のロボットはほとんど買ってもらえませんでしたが、本だけは好きなだけ買って良いという家庭でした。読むのは仏教とは全く関係ない小説ばかりでしたが、読書が好きになれたのは、このような環境だったからだと思います。


📕怠惰な大学生時代📕
大学に入っても自慢できるようなやる気のある学生ではなく、4月の頭にゲームにはまって学校を2週間ほど休み、あやうく単位を履修しそこねそうになったこともありました。授業は二の次で、宴会、バイト、麻雀を中心とした学生生活を送っており、スキーサークルに入っていたので、冬は合宿やバイトをしながら、年間70日ぐらいをスキー場で過ごし、学問とは正反対の道へと突き進んでいました。
私の中での最初の転機は、比叡山の行院に入ったことだったと思います。それまで漠然と寺の後継ぎになるのだろうとは思っていましたが、同世代の仲間とともに過ごした2ヶ月間で、仏教にもう少し積極的に関わろうと感じることができました。また、大正大学の教員をしていた父が行院中に大腸がんの手術をしたこともあって、それまで父から教わることをなんとなく避けていましたが、父が生きているうちに一度ぐらいは授業を聞いてみても良いかなという気持ちになったのです。そこで、卒業後の進路は大正大学大学院に進むことに決めました。
学部の卒業論文では、円仁の『金剛頂経』の注釈書である『金剛頂経疏』をテーマに選びました。4年の夏休みには、約一ヶ月をかけて『金剛頂経疏』に引用されている文献の典拠を可能な限り調べました。今でこそ『大正蔵』は全てデータ化されていて、簡単に検索できますが、当時は『大蔵経索引』という手がかりしかなく、それでは不十分なので、結局は『大正蔵』を1ページずつめくりながら、三百以上にのぼる引用文の出典を探し続けました。
まったく頭を使わない単純作業でしたが、円仁の仏教の知識や当時の資料の状況などの一端がわかり、文献研究の面白さを感じることができました。


📕大学院生活📕
大学院に入って一番驚いたことは、先生と飲みに行く機会がとても多いことでした。ことあるごとに酒の席が催され、当然のように説教をされ、「酒を飲まないと天台学はわからない」、「おまえは何を考えているんだ」と耳にタコができるほど聞かされ、この場からどうやったら逃げ出せるのかということばかり思いながら、先生をタクシーに乗せて、お見送りするまでが緊張の時間でした。とはいえ、この期間に個性的な先生方から、天台学の思考法を学ぶことができたことが、貴重な財産となりました。


📕文献研究の重要性📕
私が博士論文で取り組んだのは、最澄『守護国界章』でした。法相宗の徳一との間に行われた三一権実論争に関する著作であり、最澄著作の中でも最も大部なものです。
執筆当時、本書は天台宗の宗祖の最重要著作にも関わらず、一部を除いて、現代語訳はおろか、訳注さえもなされていないという状態でした。それも当然で、本書を読むには唯識学や華厳学、涅槃学、因明(論理学)などの知識も必要とされ、なおかつ分量が多いことから、今まで誰も挑戦してこなかったのでしょう。しかし、指導教授からは、『守護国界章』の論文を書く前に、現代語訳と訳注を全て行えという無理難題な指令が下りました。
大量の文献に対して、引用文の出典をすべて調べ、先行研究を参照し、語注をつけ、なおかつ現代語訳をするという作業はとても苦しいものでした。自身の実力不足を痛感し、何度も挫折しそうになりました。
しかし、この作業を通じて、少しずつ文献を読む力が身についてきて、最澄思想の背景やそれまでの学説の不十分な点を自分の力で見つけることができました。ローマは一日にしてならず。やはり、コツコツと文献を読むことが重要であることが改めてわかりました。研究を志す人は、どんな文献でも良いですから、是非とも自分の手で辞書を引いて、頭から最後まで読み進めて欲しいと思います。絶対に力がつきます。


📕現在の研究📕
最近の私の関心は、最澄の思想が後世にどのように影響を与えたかという点にあります。中世の天台宗では、最澄に仮託された文献が多く作られます。これらを偽作だから、意味のないものとして見るのではなく、最澄の思想がどのように受容され、どのような必要性で変化していったのかということを知ることも重要な研究であると考えています。

木内先生の経歴やご専門についてもっと詳しく知りたい方は、以下のリンクをご覧ください。
https://researchmap.jp/g_kiuchi
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