学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

国際文化コース

「表現できないもどかしさ」の表現

 

夏もまっさかりです。um_004_s.jpg

せめて気分だけでも「夏休み」らしくなってみようと久しぶりに映画『ビック・ウェンズデー』(1978)を観ました。

舞台は1960年代のカリフォルニアの海。マット、ジャック、リロイ、3人のサーファー青年の友情が描かれます。伝説の波「ビック ウェンズデー」は待っても待ってもきません。マットは待ち切れずに荒れますが、ジャックやリロイ、恋人になだめられます。1960年代、ようやく若者たちが「自由」を求めて自己主張を始めた時代です。

カリフォルニアの陽光あふれる風景とは裏腹に、1960年代のアメリカはベトナム戦争が若者の心に暗い影を落としていました。若者のエネルギーと焦燥感と不安。最後は年月を経て70年代、「生きていることの喜び」をはじけさせる雄大で爽快な映像ですが、波に乗って「自由」であることを謳歌するまでに、彼らが経験しなければならなった挫折も相当のものです。s.jpg

いつの時代にも青年に不安はつきまといます。1960年代のアメリカはベトナム戦争、さらにさかのぼれば1951年に発表されたサリンジャーのロングセラー『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』のホールデンの不安。何度目かの落第で、高校の寄宿舎にとどまることも、家に帰ることもできない裕福な中産階級の青年は、孤独にさいなまれながらニューヨークをさまよいます。1950年代にはまだ1960年代の青年の異議申し立ての表現方法はありませんでした。ホールデンは世の中に向かって「インチキ」とぶつぶつ独り言を繰り返します。

2010年を生きる若者にも思い通りにならない歯がゆさはつきまといます。「自分らしさ」を表現すること、「自由」に生きることは、言うほどたやすいことではないことを、いまの大学生もかみしめているはずです。

表現することばや方法がないとき、人びとはどうやって「表現しえないもの」を表現してきたのでしょう。

カルチュラルスタディーズはことばにならない叫び、声にならない唸りにも耳を傾ける研究です。目に見える壁が立ちはだかっているなら「自由を阻止するものの正体」もたやすく見抜けるかもしれません。でも「個性」「自分らしさ」「自己表現」が推奨される時代ですから、いまの時代の息苦しさを語ることばを手繰りだすのはなかなかむずかしいことです。

この夏話題の映画もたくさんありますが、1960年代、70年代、80年代の、みなさんが生まれる前に制作された作品も楽しんでみてください。現代にも通じる要素が意外なところに見つかるかもしれません。

楽しい夏を!

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