学部・大学院FACULTY TAISHO
国際文化コース
オープンキャンパス報告
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カルチュラルスタディーズコースの会場にも、たくさんの方たちが訪れてくださいました。はじめてお会いする受験生の方たちを前に、お迎えした私たちもいつもになく緊張いたしましたが、熱心にコースの説明や模擬授業を聞いてくださり、ありがとうございました。
午前のコースセミナーでは、「文化を研究する」ということの内容を中心にお話をさせていただきました。カルチュラルスタディーズと、わざわざカタカナで表記する理由もご説明いたしました。カルチュラルスタディーズは、新しい研究の方法です。1964年にバーミンガム大学で現代文研究所が立ちあげられてから、世界中にその方法は広まっていきました。多くの人たちの研究に影響を与えるとともに、半世紀のあいだに研究方法はさまざまに応用され、かたちを変えています。
カルチュラルスタディーズも、ひとつではありません。大正大学人文学科カルチュラルスタディーズコースには、私たち独自の研究方法と実践があります。午後のコースセミナーでは、私たちのコースの目標、カリキュラム、授業の取り組み、学内の教育推進プログラムの取り組みを主に説明させていただきました。
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模擬授業は午前に「『変わった』美を探そう」(担当:岩城久哲)、午後に「『ワンピース』と海賊と正義」(担当:伊藤淑子)と題して、それぞれ40分の講義をさせていただきました。通常の授業は90分ですが、大学の授業の雰囲気を味わっていただけたでしょうか。
「『ワンピース』と海賊と正義」では、「賊」であるものが物語の主人公になり、その存在が「正義」になるメカニズムを、『ワンピース』の連載初期の展開を分析することによって解き明かす試みに挑戦しました。
物語の時代背景は「大海賊時代」。でもこの「大海賊時代」とはいったいいつのことでしょうか。模擬講義では「大海賊時代」とは現代のことで、ルフィとは「世界でたった一つの花」(2002)以降の自分だけの種をもつ存在として生きることを余儀なくされた子どもたちの理想的モデルのことである、という大胆な仮説を立ててみました。「大航海時代」を思わる「大海賊時代」も、15世紀、16世紀の海のむこうの未知なる場所へのロマンを伝えつつ、「名乗り」によってアイデンティティを確立するきわめて現代的な時代であるといえます。
「自分らしさ」というオブセッションを背負って息苦しい毎日を生きることを宿命づけられた現代っ子たちが、「ゴムゴムの実(=種)」を食べて、自分のなかにまさに自分だけの種を有することになったルフィのポジティブな生き方にあこがれたとしても、何の不思議もありません。
ルフィの武器は偶然食べたゴムゴムの実によってゴム人間になったこと、そしてもう一つはコミュニケーション能力です。高いコミュニケーション能力によって、ルフィは物語のなかでカリスマ性を遺憾なく発揮します。「コミュニケーション能力とは、相手に通じることばで自分の望みを伝え、相手に納得をさせ、そして自分のほしいものを手に入れる力のことだ」というのは、いまはやりのドラッカーの定義ですが、海賊の宿敵である海軍の敬礼を受けたルフィは、まさにそのコミュニケーション能力をはからずも自然体で身につけています。
「大海賊王に俺はなる」と宣言して、「王」であること、すなわち「正当なるもの」であることをみずから宣言するルフィは、強迫観念的「自分らしさ」の時代を生きるための「これからの正義」をみずから切り拓いているということもできます。サンデルもドラッカーも超越したところにある現代性こそが、大航海時代のロマンにカモフラージュされた『ワンピース』の本質ではないか、と問題提起しました。
さっそく反論も返ってきました。模擬授業のときにお配りした無記名の小さなコメントシートに、聴講してくださった方たちからの意見やコメントが書いてありました。通常なら、次回の授業でその意見を拾い、議論に発展させていくのですが、オープンキャンパスの模擬授業はそうはいきません。議論を膨らませる機会がないことが残念ですが、皆さんの世代の「国民的漫画」(在学生の表現)である『ワンピース』、さらに考察を広げてみてください。もしご縁があってカルチュラルスタディーズコースに入学されましたら、ぜひいっしょに喧々諤々ディスカッションしたいと楽しみにしています。コメントシートにもありましたが、実在した海賊が物語のなかに登場する手法についても、分析したいものです。
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次回のオープンキャンパスは7月24日です。また本日とは異なるコースセミナー、模擬授業を用意して、リピーターにも楽しんで参加していただけるプログラムを考案しています。ぜひ、足をお運びください。♪♪♪♪