学部・大学院FACULTY TAISHO
国際文化コース
ディズニーとファンタジー
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「異文化の理解B」のテーマはディズニーとファンタジー。カルチュラルスタディーズの方法を用いて、とくにポストコロニアル批評とジェンダー批評の視点から、ディズニーという文化現象を分析することを目的に、授業を進めてきました。これまでは授業が問題提起をし、それを考察するというかたちで展開してきましたが、まもなく12月を迎えると、学生は自分の見つけたテーマを探究し、発表を行ったり、論文にまとめたり、という段階に入ります。どのような論考が生まれるのか、今から楽しみです。
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11月26日の授業はゲスト講師に荒このみ先生(東京外国語大学名誉教授、立命館大学客員教授)をお迎えし、ディズニー映画『ポカホンタス』(1994)をめぐる興味深いお話を伺いました。ヨーロッパのおとぎ話や童話をアニメ化してきたディズニーですが、ポカホンタスは実在したネイティブ・アメリカン(インディアン)のプリンセス(酋長の娘)です。1607年にジョン・スミスがアメリカに到達し、ヴァージニア植民地の建設にとりかかるとき、白人と先住民のあいだにたって両者を結び付ける働きをしたのがポウハタン族の酋長の娘であるポカホンタスです。ジョン・スミスがネイティブ・インディアンたちにつかまり、処刑されそうになったとき、わが身を投げ出してかばい、命を助けたというエピソードが伝えられています。
本当にそのようなことがあったのかどうかわかりません。ジョン・スミスがわの記録しか残っていないからです。ネイティブ・アメリカンにとって、白人との最初の出会いがどのような意味をもつものであったのか、ということを、ネイティブ・アメリカンの記録から探り出すことができないのです。
ディズニーはポカホンタスとジョン・スミスのあいだにほのかな恋愛的感情を描きます。しかしこの作品は他のディズニーアニメと異なり、結婚では終わりません。『リトル・マーメイド』でアンデルセンの「人魚姫」の結末を大胆に変えたディズニーも、ポカホンタスがジョン・スミスではなく、その部下の白人ジョン・ロルフと結婚したという史実をまげるわけにはいかなかったということかもしれません。
あったかなかったかわからないジョン・スミスとポカホンタスのストイックな恋愛感情が物語の中心に置かれてはいますが、それでも『ポカホンタス』には興味深い点があります。白人のプリンセスではなく有色人種の酋長の娘を主人公にしたこと、そして作品の随所に西洋的な価値観とは異なるネイティブ・アメリカンの世界観が表現されていること。これらのことは、ディズニー産業にとっては画期的なことです。
しかし、そのような多文化主義的な表現が、アメリカにおいて行われた白人によるネイティブ・アメリカンにたいする残忍で冷酷な人種政策を忘れさせるわけではありません。フロンティアが西へ進むにつれて、ネイティブ・アメリカンは肥沃な土地を追われ、不毛な地域へと移動させられました。土地は恵みを与えてくれるものであって、所有するものではないというネイティブ・インディアンの考え方につけこんで、白人は彼らから土地を奪い、追いたてました。「涙の道」の悲惨な状況は、いま聞いても胸がつまります。
ネイティブ・アメリカンが自分たちの物語を自分たち自身で紡ぐのは、20世紀も後半になってからのことです。そのうちの一つ、レスリー・マーモン・シルコーの長編小説『儀式』(1977) は荒先生が翻訳されています。
ディズニーのアニメ作品から、歴史と物語、事実とフィクションの複層的な関係が浮かび上がります。娯楽として消費されるものが抱えている矛盾を一つひとつ解きほぐし、表現や表象を読み解いていく知的作業のおもしろさを、具体的に教えていただきました。
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授業の後、廊下で、荒先生に質問する学生たちです。自分たちの物語を語り始めた、といっても、つまるところ同化政策の結果として英語教育を受け、高等教育を受けるチャンスを獲得した結果ではないか、つまり自分たちを搾取し迫害した者たちの言語文化に取り込まれたということではないか、という鋭い質問を荒先生は喜んで受けとめてくださり、またひとしきりのディスカッションが盛り上がりました。
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たしかに教育はいつも両義的です。「ディズニーとファンタジー」の授業もまた、マージナルな者の視点をもとう、と呼びかけるカルチュラルスタディーズの方法を用いながら、大学の教室という、ある意味では特権的な環境で行われています。そしてその考察は評価され、単位という、ある種の「権威」によって教員に管理されているのです。でも、その矛盾のなかから、自分の視点とことばを獲得する学生の力が育つのだと信じています。
荒先生の授業から、たくさんの刺激を受け、それを学生たちが自分の考察へとつないで発展させてくれることを願っています。
秋学期の集大成に向かう時期になりました。成果を楽しみにしています。♪(伊藤淑子)