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国際文化コース

カルチュラルスタディーズコースって何を勉強するの?③ 『レミーのおいしいレストラン』からはじまる文化研究

9月に入りました。秋3.jpg

受験生のみなさんは2学期がはじまっていよいよ本格的な受験シーズンの到来ですね。AO入試や推薦入試はまもなく出願が始まりますし、センター試験の申し込みももうすぐです。

大正大学は秋学期開始まで、まだもう少しあります。カルチュラルスタディーズコースの学生たちから、少しずつ秋学期にむけて履修の相談メールも届くようになりましたが、それぞれに楽しい充実した夏休みを過ごして、リフレッシュして授業に戻ってきてください。

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さて、前回はカルスタの1年生の基幹的な必修科目である「基礎ゼミⅠ」について、説明をしていました。担当教員がそれぞれの研究領域を背景にしながら、導入にふさわしい題材を選び、文化研究の方法を具体的に紹介していきます。

この授業の最後に取り上げるのが『レミーのおいしいレストラン』というディズニーのアニメ作品です。

ポイントは①なぜレミーはねずみか、②登場人物はなぜ、イタリアの青年「リングイニ」=パスタの名前、辛口の料理評論家「イーゴ」=自意識/エゴ、天才シェフ「グスト」=味、というように、役割を連想させる名前をもっているのか、です。

これから5回にわけて、『レミーのおいしいレストラン』を使って授業で展開した議論を紹介します。そのあとで授業後に学生たちが提出した課題論文を紹介したいと思います。

授業は学生と教員のコミュニケーションメディアです。教員からの働きかけを、学生がどのようにキャッチし、そこで生まれた議論をどのように発展させるか、それが大切なことです。

授業が始まる前に、次の課題が出ています。①レクチャーを聞きながら、自分が一番気になる登場人物を選ぶこと、②その名前の意味とその登場人物の物語上の役割をアレゴリーという視点から考察すること、③そしてこのアニメが意図的または無意識に異化するものを見つけること。レクチャーのあと、それぞれの発見を話し合って、それを短い論文にまとめることが目標です。プロジェクトをベースにしたアクティブラーニングの実践です。

では、まずレクチャーの内容。

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アレゴリーとしての『レミーのおいしいレストラン』①

 

ネズミが料理をすると

 『レミーのおいしいレストラン』(2007)の最大の皮肉は、ネズミが料理の天才であることだ。もっとも衛生的であることが必要とされる場所で、不潔の代名詞ともいえるネズミが人間の味覚を支配する。料理文化のなかでもっとも洗練されたイメージをもち、繊細な技術が必要とされるはずのフランス料理の、しかももっとも高く評価されたレストランで、その逆転は起こる。

物語を正面から見れば、小さくて力のないネズミが、フランス料理の頂点に立つサクセス・ストーリーである。だから痛快である。フランスの田舎で、クマネズミのレミーは、だれからもその才能を認められず、料理文化の発展と普及に身を捧げることを夢見ながら生きている。人間の食べ物に寄生し、ただ空腹に促されて何でも食べる生活に、レミーはつくづく嫌気がさしている。レミーが尊敬してやまないのは、いまは亡きフランス料理人グストである。食べ物を得るために人間の家のなかに入った仲間が見つかり、逃げ出すときもレミーが手放さなかったのは、グストが著した本である。逃げていく途中で家族からも仲間からもはぐれ、下水を通じてたどり着いたパリで、幽霊として現れたグストに導かれて、いまは後継者スキナーが経営するレストランに入り込む。そして見習いコックのリングイニと出会う。

レミーはリングイニと合理的な契約を交わす。リングイニのコック帽に潜み、頭髪を操作して信号を送り、リングイニがレミーの信号の指示通りに料理をする、という連携である。ネズミのレミーが厨房で見つかれば、たちまち駆除されてしまう。小さな身体のレミーには料理器具を操ることもできない。自分の発想と技術がもたらす名声を、レミーはリングイニに譲るほかはないのであるが、潔く名を捨て、実を取る。人間であるという特権でレミーの成果をすべて自分の手柄にするリングイニであるが、実際にはリングイニはレミーのロボットとなるのである。

この構図が想起させるのは、日本アニメで繰り返し表現されてきた「巨大ロボットを操る無垢な子ども」というパターンであろうか。『鉄人28号』(1956)、『魔人ガロン』(1959)、『機動戦士ガンダム』(1979)、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)と、子どもがロボットのなかに入り込むことによって、人類の救出や世界の防衛など、物語の設定するミッションに立ち向かうロボットが数多く描かれてきた。

レミーにとって、料理はもっとも繊細な文化であるにもかかわらず、リングイニは無神経にレシピを台無しにする。いわば暴力的な破壊者である。レミーという無垢で弱い小さなネズミが、料理文化にとっては破壊者ともいえるリングイニの帽子のなかに入って、リングイニを「正しく」行動させるのである。食材をまぜ合わせるタイミング、火加減、調味料の入れ方、あらゆることをレミーが指示してできあがった料理が、グストのレシピの忠実な再現となる。指揮者が再現する音楽が創造的であるのと同様の意味において、レミーの料理は主体的な創造行為の産物であるといえる。

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次回に続きます。伊藤淑子

 

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