学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

国際文化コース

2013年度「カルスタ賞」決定!!

 

はじめに

カルチュラルスタディーズコース(カルスタ)では、毎年、論文集『私たちのカルスタ』を刊行しています。もう「第4号」になりました。

 これは、年度ごとの企画委員の人たちの熱意と頑張りによるものです。昨年度の企画委員の人たち、本当にありがとう!

 今から、2013年度の「カルスタ賞」の最終選考の結果を皆さんにお伝えします。

 

表紙.jpg 

 カルスタ賞の選考方法について

まず、選考方法についてお話しします。

『私たちのカルスタ』への投稿者は12年生で、投稿総数は68編でした。第一段階で、それらをカルスタの12年生全員が読み、自分が良いと思うものに投票しました(2作品まで)。

そこで上位にランクされた6人の作品が最終選考に回ってきました。それは、以下の人たちおよび作品です(五十音順)。

 

・安立妃里 「『モンスターズ・インク』の中の恐怖」

・石山友貴 「『くもりときどきミートボール』から見る機械と人間」

・大橋優斗 「文学作品からみる青年期の生活体の社会的位置」

・佐々木渚 「女子大生はカルチュラルスタディーズの夢を見るか?」

・中村美和 「アトムと〈心〉」

・中山真優子 「ヒーローとアメリカの伝統思想の変化」

 

これらの論文の中から、着眼点、自分の意見の有無、議論の論理的な展開、論旨の一貫性、議論の説得性、結論の明快さ、文章力、形式などを踏まえて、総合的に選考しました。

 書かれたものの評価は、往々にして、評価する人によって異なります。それは、多くの賞やコンクールで、審査員の意見が食い違うことに見られます。したがって、今回賞を取った人も取れなかった人も、学生諸君の投票結果ならびに選考結果に、一喜一憂しすぎないでください。まあ、カルスタの論文集のオマケくらいに考えておいてください。

 

全体の講評

 今回は、文章力というか、文字による伝達能力が勝敗を決めたような感じがします。つまり、すっと頭に入ってくるか否かということです。もちろん、難しい内容になれば、すっと頭には入って来ませんから、分かりやすさだけが重要だということでは決してありません。

また、論文集に収められる論文はそれほど長くありません。ですから、あまりにも大きなテーマを掲げると、どうしても論証が大味になります。適切なサイズのテーマを選択し、分かりやすい文章で、しっかりと論証した論文が上位にランクされたと考えてもらっていいでしょう。

 

金賞について

金賞には「大橋論文」を選出しました。その理由は、論旨の明快さ、「はじめに」と「おわりに」の対応(問題提起と結論の対応)、異分野のもの(文学と社会心理学の成果)を結びつけた着眼点などが挙げられます。

 

!cid_8d06c6a7-187e-4282-bbc1-fa1af9cf16c0@icloud.jpg

 

内容は、アメリカや日本などで広く読まれた2つの文学作品、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(原書1951年、邦訳1984年)とバックの『かもめのジョナサン』(原書1970年、邦訳1977年)を例に挙げながら、青年期にある若者(「生活体」)の社会的位置づけについて論じたものです。結論としては、「社会に適応することができず、自分の場所が存在しない〈境界人〉となった青年たちは、自己のアイデンティティを確立することができず、アイデンティティークライシスに陥ってしまうのではないだろうか」というものです。

議論を展開するにあたって、社会心理学者のレヴィンの “marginal man”(境界人)という概念を2つの作品の解釈に適用しています。図を使用した説明は、主張を展開するのに効果的です。

もちろん、多くの問題点があります。次に、それについて述べます。

(1)「生活体」という耳慣れない言葉を使用していますが、この言葉を使用する理由が理解できません。本文の使われている「青年たち」や「青年期にある人間」などではいけないのでしょうか。

(2)どうして上記の2冊を選んだのかについても、知りたいところです。

(3)36頁に長い引用があり、その直後に「上記の文章からホールデン〔主人公〕は、自分が最も嫌う〈インチキな大人や社会〉から子供たちを救う者になりたいと述べている」と断言していますが、論理の飛躍があります。これを埋める繋ぎの文章が不可欠でしょう。

(4)タイトルの「文学作品からみる」というのは、範囲が広すぎます。もう少し範囲を限定すべきでしょう。せめて「アメリカの2つの文学作品からみる」くらいに。

さらに欲をいえば…。

(1)『ライ麦畑でつかまえて』が書かれて60年以上、『かもめのジョナサン』が書かれて40年以上たっています。現代は当時よりも複雑化しているといえるでしょう。さらに、2作品ともアメリカの作品です。2作品で導かれた結論を「青年期の生活体」一般に適用できるでしょうか。こうしたことについて、注か何かの形で、「そんなことは分かっているよ」とサインを出しておくと良かったかもしれません。

(2)「追放者の群れ」は注で参照箇所が示されています。しかし、「境界人」を論じるためには、可能であれば、これについて本文できちんと書いておくほうがいいでしょう。肩透かしをくらった感があります。

(3)細かい表現上の事柄ですが、締めの文章は「陥ってしまうのではないだろうか」という疑問形にするよりも、「陥ってしまう可能性が高いといえる」くらいにしたほうが、よりインパクトがあると思います。論文だから、遠慮せずに、強気の表現にしたほうがいいでしょう。

 

銀賞と銅賞について

銀賞には「石山論文」を選びました。その理由は、論旨の明快さ、説明のうまさ、「はじめに」と「おわりに」の対応(問題提起と結論の対応)、アニメのなかのメッセージを自分なりに解釈しながら「大多数の一般市民」に対して「機械の副作用」「テクノロジーの反動」を深く認識すべきことを指摘している点などです。参考文献がもう少しあれば、さらに思索が深まったかもしれません。

銅賞には「佐々木論文」を選びました。その理由は、具体的なアニメを題材としながら、自分の意見がかなり展開されているからです。しかし、テーマが難しいものなので、論理の展開が本当に正しいといえるのか、と感じる部分もあります。たとえば、107頁の最後の段落から次の頁にかけての論証です。「人間」の定義についても一工夫ほしいところです。「人間」の人文・社会科学の定義は、辞書をそのまま引用するのではなく、「社会的存在として人格を中心に考えたひと、また、その全体」くらいでいいのではないでしょうか。

 

佳作について

「安立論文」「中村論文」「中山論文」が佳作ですが、全体として、次のような指摘をしておきたいと思います。あまり大きなテーマを設定しないで、焦点を絞ること(適正サイズのテーマ選択)。設定した問題点には必ず答えること。素材を差し替えたり、素材を並べる順序を変えるなどして、読者が理解しやすいような論理の流れをつくること。さらに推敲をかさねること。

 

DSCF0047.JPG

 

おわりに

今回のカルスタ賞については、以上です。また来年も、素晴らしい論文集『私たちのカルスタ』が出来上がることを楽しみにしています。

最後に、論文集に投稿してくれたカルスタの学生さん、企画委員や運営委員の人たちにも、御礼を述べて、擱筆します。ありがとう!

 また、教務部・事業推進室の皆さんにも、大変お世話になりました。ありがとうございました。

 

星川啓慈(人文学科カルチュラルスタディーズ教授)

 

 

【付記】

(1)「カルスタ賞」は以前には「星川賞」という名称でしたが、今回から「カルスタ賞」と名称を改めました。

(2)表彰式は、6月5日(木曜日)に1号館2階の大会議室にて行われました。

 

 

GO TOP