学部・大学院FACULTY TAISHO
国際文化コース
カルスタ漫画・アニメ・ゲーム研究会「トワイライト」の活動報告➇
秋学期の授業も終わり、学生たちは春休みに入ります。次に授業で会うときは、進級して、学年が一つ上がります。休みに入る前に挨拶に来てくれる学生たちの表情が、きりっとしています。言うまでもありませんが、学生時代は無限ではありません。有限である大学での時間を、いっそう大切に過ごしたいという学生たちの気持ちが伝わってきます。
部活動に専念できる時期でもあり、大学から離れてそれぞれの活動ができる時期でもあり、学生一人ひとりが自分の計画を遂行できることを願っています。
「トワイライト」の秋学期の最新の活動報告が、届きました。
えっ?大学生が『クレヨンしんちゃん』と思わないでください。大人も子どもも楽しめるように仕組まれたアニメーションには、文化研究の要素が満載です。
●●●
こんにちは、ファシリテータを初めて務めたトワイライトメンバーのMです。
今回はギャグ要素の強い作品を取り扱うということで、アニメ「クレヨンしんちゃん」(以下「クレしん」と表記)を題材として取り上げました。「クレしん」は20年以上も続いている日本の中でも比較的長寿のアニメ作品であり、本編では5歳児のしんのすけ君ですが、作品年齢では大学生より歳上になります(笑)。
「クレしん」は長寿の人気アニメ作品でありながら、PTAの「子供に見せたくない番組」のワースト上位に入っている異例の作品ともいえます。これほど身近で、賛否両論で、しかも人気のある作品はありません。20作以上のクレしん映画の中から、今回は『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(1997年公開、以下『暗黒タマタマ』と表記)を議論しました。
この作品の大きな特徴の一つは、「オカマ」キャラが登場することです。オカマと聞くと嫌悪や気持ち悪いイメージをもつ人も少ないことも事実です。しかし「クレしん」ではオカマキャラの登場というのは珍しいものではなく、作品の特徴となる存在としても捉えることができます。『暗黒タマタマ』の前作である『ヘンダーランドの大冒険』(1996)では悪役として二人のオカマが登場していました。他の「クレしん」映画でもオカマキャラは頻繁に登場します。ここで共通していることが、人物のポジションは違ってもそれぞれの作品での描かれ方がとても活き活きしていることです。
その中でも特に当てはまるのが今回とりあげた『暗黒タマタマ』に登場するオカマの三人兄弟です。三人とも頼もしく優しさももちあわせ格闘術まで習得しています。しんのすけの父ひろしがオカマを見て嫌そうな反応をした時には「オカマよ。なんか文句ある!?」という台詞からオカマであることに自信をもっていることもわかります。『暗黒タマタマ』で描かれるオカマは強さ、たくましさ、優しさの三拍子が揃っており主人公のしんのすけ以上の存在感を発揮しています。
このような「オカマ」の描写にはどのような効果があるのでしょうか。自分にとっては幼少期の頃からオカマに対するイメージというのは決して悪いものではなく、むしろ好意的に思っていました。その理由としては幼少期の頃から「クレしん」で描かれるオカマを知っていたからなのではないかと感じました。他のトワイライトメンバーにもこの三人のオカマが好評でした。
そうすると、「クレしん」は逸早くLGBTQの問題を作品に取り入れていたということになります。性の多様性を、子どものころから「クレしん」で学んだということになるのではないか。「クレしん」がオカマの活き活きした姿を描くことにはオカマに対するネガティヴなイメージの脱却という意図があるのかもしれません。
「オカマ」の他にも、興味深い点はたくさんありました。たとえば、悪役をとっても紳士的で品性のある要素を加えてどこか憎めないような悪役を描いてもいます。また、本編で『クレヨンしんちゃん』の原作者が初めて作品に登場するのですが、その原作者をひろしが殴ってぶっ飛ばしたりと、ブラックなユーモアも多く、トワイライトメンバーにもとてもウケていました。私はこの『暗黒タマタマ』を10回近くはみていますが、今回の鑑賞を通してまた新しい視点を発見することもできました。今回はオカマという点を分析しましたが、「クレしん」では他にもたくさんの視点から考察ができると思います。「クレしん」の描くギャグが海外からみてどのような反応をするのかといった国際比較も面白いかもしれません。
偽悪的な印象とは裏腹に、人間のあり方の多様性を描き、社会秩序を拡散しているように見えて、人と人の絆を描く「クレしん」を、大学生の視点から「深」読みしていくのは楽しいものです。
●●●
報告をありがとうございます。
単純に見える作品からさまざまな「読み」を引き出す力を培ってきたトワイライトです。
♪伊藤淑子