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国際文化コース

【人文学科国際文化コース】 リレー国際体験記(5)星川啓慈先生②

国際文化コースの教員によるリレー国際体験記、今回で5回目です。
ぜひお楽しみください。

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バックパッカーとしてのヨーロッパ一人旅

 先回お約束したとおり、今回は「バックパッカーとしてのヨーロッパ一人旅」という内容で書きます。大学5年(留学のため1年遅れているので)の5月から6月にかけての3週間の旅です。それは、1979年の5月から6月にかけてでしたから、もう43年もたってしまいました。この時、ヨーロッパで訪れた国は、フランス、ドイツ、スイス、オーストリアです。
 なお、写真は1枚を除いて、すべて星川が撮影したものです。やや古ぼけていますが、かえって味わいがあるかもしれません(笑)。

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 「ユーレイルパス」というヨーロッパの鉄道が乗り放題の切符で、気分の赴くままに旅をしました。電車で一緒になった年配の方は、「働きづめだった会社を退職したので、1年かけて私はドイツ語を、妻はフランス語を勉強しました。いま、1年かけてユーレイルパスでヨーロッパを巡っているところです」と話してくれました。羨ましい老後生活ですね!
 私は、学生だったので、もちろんリッチな旅はできませんでした。夜行電車で移動したことが1度(か2度)だけありましたが、隣の列車では夜通し大勢の乗客が大騒ぎをしていて、まったく眠れませんでした。パリの北駅では1200円の安い宿に泊まったり、旅先でのお昼はスーパーで買ったもので済ませることもあったりと、学生の身分に相応の旅でした。

筆者が使用した「ユーレイルパス」と
「ツェルマットとゴルナーグラートの往復切符」

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 先回、「何度も騙されそうになったけど、どれも無事に切り抜けた」と書きましたが、1つだけ紹介します。
 フランスのレストランで昼食をとったときのことです。勘定を払いましたが、「どうも高すぎる」と思って、「計算は合っているのですか」と確認しました。相手はすぐに計算しなおして(じつはそのふりだけ!)、余計に払った分を返してくれました。その後、レストランを出たのですが、「やはり高い」と思って計算してみるとまた間違っています。私が再びレストランに入ると、今度は、私を見るや否や、何も言わずに慌てて、正しい釣銭の残りの金額を向こうから差し出しました。このことからわかるように、客を2回(3回だったかも)騙しているわけです。悪質ですね。

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 カンザス大学の学生証には “University” という文字があるので、「大学生である」ことがどこの国でもわかってもらえて、多くの美術館や博物館は無料で入ることができました。フランスでは、「ルーヴル美術館」を訪れました(この美術館に無料で入れたどうかは、記憶にありません)。

ルーヴル美術館(たぶん)内部

 ルーヴル美術館では、絵画を学ぶ多くの学生たちが美術館内の作品を「模写」していました。傑作を精確に「模写」するのはなかなか難しいことでしょうね。芸術でも学問でもスポーツでも何でも、先人の仕事・作品・動きを「まねる」ことは、すぐれた物事を自分で追体験することや、自分独自の世界を構築することなどにとって重要な気がします。ちなみに、ヨーロッパでは「ミメーシス」(模倣/感染的模倣/再現的呈示)という伝統があります。
 授業でも毎年話している「ジョコンダ」(=「モナ・リザ」)だけはきちんとケースに入れられて陳列されていました。湿度や温度の管理がなされているのでしょう。しかし、ほとんどの作品は鑑賞者と作品を隔てるロープなどがなく、作品に近づいてじっくり細部を見られることに、驚きました。
 皆さんも知っている、かの有名な「ミロのヴィーナス」も、「無造作に」展示されていました。思わず触ってみたくなりましたが、もちろんそこは我慢しました! その時「これはレプリカに違いない」と思っていたのですが、後日、美術館に詳しい人に確認したら、「本物だと思います」という回答でした(自分で調べてもそうでした)。

鑑賞者は作品にこのように近くまで近づくことができます。この人は、衣の「鑿」のあとを見ているのでしょうか…。

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 作品と鑑賞者の距離が短いことに関連して、もう1つ。
 それから数年して訪れたロンドンの「テート・ギャラリー」(現テート・ブリテン)でのことです。ウィリアム・ブレイクの作品は水彩画なので、光が当たると色が薄くなるため、鑑賞されないときには黒い布で覆われています。しかし、作品を鑑賞したい人は、自分でその布を取り去って「直に」その作品に向かう事ができます。ドキドキしながら、黒い布をとり、ブレイクの作品と対面したのを思い出します。
 作品と鑑賞者の距離が近いことは、鑑賞者にとってはありがたいことですが、当然、心無い人々によって、傷つけられたり盗まれたりすることもあるようです。それでも、日本と比べるとヨーロッパでは(リスクがあっても)作品と鑑賞者の距離が近い、と思います。なぜそうなのか、比較文化研究の種になりそうですね。

パリの道をブラブラしていたとき、突然出会ってビックリした作品。 このように、普通の道にも芸術作品が無造作に展示(?)されている。

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 スイスでは、山岳鉄道でツェルマットに到着しました。目的は「マッターホルン」を見ることです。最初の日は、山の一部が短い時間見えただけで、がっかりしました。そこで、もう1日もう1日と3泊しましたが、あとの2日はまったく見えず…という結果に終わってしまいました。
 3泊した宿では、温めて飲むワインの存在を知りました。たしか「グリューワイン」(Glühwein)と呼んでいましたね。ただし残念ながら、私の好みの飲み物ではありませんでした。ちなみに、この種のワインは、フランスでは「ヴァン・ショー」(vin chaud)、英語では「モルドワイン」(mulled wine)と呼ばれるそうです。日本でも最近はかなり知られるようになっています。

ツェルマットから見た「マッターホルン」
by Andrew Bossi(『ウィキペディア』から転載)

 ツェルマットから約3km東に位置しており、2つの氷河に挟まれ、モンテ・ローザ、リスカム、マッターホルンなどの多数の4,000m級の山々を眺めることができる「ゴルナーグラート駅」(標高3,089m)があります(前掲の切符を見てください)。もちろん、スイスの山岳鉄道でそこを訪れました。この駅とツェルマット駅(標高1,604m)との標高差は約1,500mにもなります! この間をスイスの山岳鉄道がゆっくりと登るのです。

43年前のゴルナーグラート駅
現在インターネットで見られる写真と趣が違いますね。

ゴルナーグラートの展望台からみた絶景!
6月だというのに、涼しい!
左がモンテ・ローザ(4,634m)、右がリスカム(4,527m)

 ゴルナーグラートの展望台からの景色は、「ああ、絶景かな、絶景かな」で、上の写真のとおりです。また、ツェルマットにはスキー客もたくさん来るそうです。スキーをしたことのない私も「こういう大自然の環境の中で滑ると、世界観が変わるだろうな…」と、羨ましく思いました。
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 「記憶は過去を美化する」という名言もありますが、このシリーズを書くようになって昔のことを思い出し、頭の良い体操になっています(笑)。
 次回は、「ヨーロッパで一番、車窓の景色が美しい」ともいわれる、ノルウェーの「フロム鉄道」について書きます。哲学者のウィトゲンシュタインが何度も乗った鉄道です。ご期待ください!

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バックナンバー
⑴「カンザス大学留学体験記」(2022年5月アップ)
https://www.tais.ac.jp/faculty/department/cultural_studies/blog/20220518/76445/

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次回のアップも楽しみにしてください。

◆人文学科 助手
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