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国際文化コース

【人文学科国際文化コース】リレー国際体験記(10)伏木香織先生②

国際文化コースの教員によるリレー国際体験記もついに10回目になりました。
今回は伏木香織先生の2回目です。

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留学手続き中のこと(1)


 インドネシア国立芸術大学デンパサール校への留学を目指したのは学部の5年生になってからのことでした。5年生の夏にバリ州主催のバリ芸術祭に参加して、やはりガムラン(インドネシアの伝統的な音楽)を留学してしっかり勉強しなかったら人生に心残りができてしまう!と思ったのがきっかけ。

 しかしながら、インターネットが一般的でなかった当時、留学手続きは非常に大変でした。そもそも国費留学生の枠にはあぶれたので、留学手続きにあたってのサポートはどこからもなし。大使館に相談にいくも、「できればエージェントはつかわないで欲しい」といわれたこともあって、手探りで留学手続きを始めたので、何も情報がなく、何からすべき?という状態。留学許可を先方の大学からもらうべく、やっとのことで申請書を出してからも何ヶ月も返事が来ない。「一度行ってみたほうがいいのでは?」ということで手続きのために飛び立ったのが、長い留学手続きの旅の始まりでした。

 まあ、長い手続き中には様々なことがありましたが、それらのことはともかく、ここで皆さんにお伝えしておきたいのは、その経験は決して無駄にならなかった、ということです。手続き中、インドネシアのビザを得るために、インドネシアから一番近い外国であるシンガポールに何度も出入りすることになりましたが、その時の経験がやがて15〜20年後になって、研究テーマになったりするのです。そのうちのひとつを紹介しましょう。

 ちょうど春節の時期に、インドネシアからシンガポールに渡ったときのことです。数日間滞在して、ビザが取得できたらインドネシアに戻る、という予定で滞在中のことです。街の中で、大音量で楽器を演奏しながらトラックが通り過ぎて行きました。小さいときから、『ハーメルンの笛吹き』よろしく、音が鳴っているものがあると一直線にそれを見に行き、ついて行ってしまう性格の私は、当然、その音に心惹かれて、それを追うわけです。そのトラックはとあるビルの前に止まりました。するとメンバーがぞろぞろ降りてきて、獅子や龍を先頭に楽器隊とともにビルの中へ大音量のまま入って行きました。そう、そのトラックは華人のライオン・ダンスのグループのものだったのです。

 ライオン・ダンスは春節や寺廟での祝祭や儀礼の時などには欠かせない芸能ですが、それがビルのなかにある複数の店舗やオフィスの依頼で、春節の門付にきていたのでした。ビルという閉鎖空間、だけど吹き抜け構造をもつ空間で、大音量で鳴り響く太鼓と銅鑼の響き。そしてそれとともに獅子と龍が激しく舞い踊り、赤い封筒とふたつのオレンジをもらって、依頼された店舗やオフィスに祝福を授けながら、廊下を渡り歩いていく様にはワクワクしました。こんな大音量と舞踊を人々や社会が自然に受け入れているなんて!

 ちなみにバリ島の芸能もまた、屋外にあって大音量で上演される音楽と舞踊を伴う芸能です。それが社会でどのように生きているのかを学びにいく過程で、それとはまた異なる人々に密着した芸能の姿を目にした私は、その直前にあまりにも多様な言語状況ゆえに研究することを一度挫折したシンガポールの芸能について、将来的に研究したいなぁと思ったのでした。それが実現するのは、なんと15年後のことでした。

 ちなみに、もし、皆さんが春節の時期にシンガポールでライオン・ダンスのグループを室内で見かけることがあったら、大きな音にご注意ください。弱音器などはありませんし、使いません。いろんな人々が季節の風物詩として共に楽しむ様を見ていただければと思います。(伏木香織)

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次回の更新も楽しみにお待ちください。

↓リレー国際体験記、伏木香織先生の1回目はこちら↓
https://www.tais.ac.jp/faculty/department/cultural_studies/blog/20220424/76215/

編集:人文学科助手
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