学部・大学院FACULTY TAISHO
人間科学科
授業紹介02:生涯発達心理学
生涯発達心理学は受胎してから死に至るまでの心の変化について検討していく分野です.担当の長谷川が紹介します.講義では,人間の生涯発達について,遺伝と環境,進化論,心理社会的な側面の3つから話をします.今回は,それらの基礎となる生涯発達心理学とは何かという概論の中からライフコースに関する内容について紹介します.ライフコースとは,個人がたどる一生の道筋のことです.
自分の人生これからどうなる?
初回の講義で,「あなたの人生はこれからどのようになっていくでしょうか.今から死に至るまでを想像して下さい」として,受講生の皆さんに自由に書いてもらいました.今後の人生なんてどうなるか誰にもわからないのだから,思いきって好きなことを書いて欲しいと伝えました.
受講生の記述内容を分析すると男女によって異なる側面が浮き彫りになりました(表).
女性については,75%が結婚すると考えていました.結婚後の立場について書いた人のうち専業主婦になると考えている人は45%,常勤で働き続けると考えている人は40%,パートタイマーは15%でした.子どもをもつか,もたないかについて回答した人は全体の24.6%でしたが,全員が子どもをもつイメージを抱いていました.子どもをもつことを想像している人の多くは,子どもが小さい間は専業主婦かパートとして働き,育児を優先して子育てを楽しもうとしているようです.また,自分が亡くなるときの年齢は記入している人のうち20.6%が90歳以上と回答し,50歳代まで亡くなるとイメージしている人は5%にしか過ぎません.女性の記述は,全体的に「明るい家庭」を築き,「元気で」「楽しく」人生を歩み,長生きするという活力あふれたポジティブなものが多いようでした.
男性について,女性と異なる点は,結婚後の仕事について書いた人はすべて常勤をイメージしていること,記述の内容について「就職に失敗する」「失業する」など記述全体の印象として「ネガティブ」なものが26%と多いこと,亡くなる年齢を50代までとしている人が13.3%もおり,66%(死亡時年齢を記載している人の87%)は 男性平均寿命の80.2歳を下回っており,早死にするイメージをもっている点です.もちろん,やりたいことを存分にやると書いている人もいましたが,ネガティブなイメージをもつ人は,自身が生涯仕事を持ち続けること,家族を自分の責任において養う必要があることを前提としていることから生じるプレッシャーを強く感じているからかもしれません.
7年ごとの成長記録
このように自分のこれからの人生をイメージしてもらった後に,7歳から7年ごとに同じ人たちにインタビューを繰り返して作られたドキュメンタリー『56歳になりました(英国グラナダ・テレビ)』と『7年ごとの成長記録:28歳になりました(NHK)』の一部を抜粋して見てもらいました.イギリスでのインタビューは歴史が長く,日本,ロシア,アメリカなどでも後を追う形で作成され続けているものです.様々な階層,地域に住まう人たちが児童期,多感な思春期,青年期を経て,社会の中で生きていく姿が描き出されています.イギリス版は受講生にとっては異文化ではあるものの,各人様々な問題を抱えながら家庭をもったり,子どもを育てあげたりして,現在老いに向き合いつつある姿に触れ,日本版では受講生と似通った環境の中で大学,就職と1つずつ人生の選択をしていく姿に触れて,どのように感じたか感想を書いてもらいました.
「考え方は年とともに変わっていても,その人の根本のようなものは変わらない」,「挫折,失敗が無駄ではなく,その人の糧になっている」,「自分は普通の人生を歩むと思っていたが,普通なんてどこにもない」など,当事者がカメラの前で語っているからこそ出てくる迫力や言外の印象などをつかみとり,自分自身と向き合いながら一生懸命生きていく重要さを意識した内容が多数寄せられました.あわせて,インタビューを受ける側の立場,心情などについても考えることにより,人間科学の研究を行う上での倫理的な配慮点などを具体的に議論する機会となりました.
個人の人生は多様です.そのような多様性の中から,生きる時代や社会を同じくすることによって見えてくる共通性,相違点を引き出していく.生涯発達を研究していく上での1つのとらえ方を学びました.(文:長谷川)