学部・大学院FACULTY TAISHO
公共政策学科
行政、立法、司法におけるDX(尾西先生より)
行政、立法、司法におけるDX
2022年3月14日
公共政策学科 尾西雅博
近年、頻繁に目にする「DX」は、皆さんもご存じのとおり、デジタル・トランスフォーメーションの略字です。ところで、Dは「digital」の頭文字ですが、「X」は何を表すのでしょうか。これは、英語で「trans」をしばしば「X」と表記するところから来ています。さて、トリビア(豆知識)はこれくらいにして、本題に移ります。
最近、行政、立法、司法の各部門において、DXに関して様々な動きが生じています。そこで、その概略を紹介しておきたいと思います。
最初に、行政部門についてみると、電子政府の推進を目指して、行政のIT化が進んでいます。とりわけ、昨年9月に発足したデジタル庁に司令塔の役割が期待されています。また、岸田首相の提唱する「デジタル田園都市国家構想」の実現により、電子政府化が加速することに期待が寄せられています。電子政府の世界ランキングをみると、日本はかつて6位に位置していた時期もありましたが、2020年は14位と、やや物足りないように思われます。デジタル庁のリーダーシップの下、早期にトップ10復帰を果たし、更にその上を目指すことが望まれます。
次に、立法、司法部門には何か新たな動きがあるのでしょうか。まず、立法府では、国会審議にオンライン会議を導入する方向で議論が進んでいます。既に大学の授業や企業の各種会議もオンラインを体験している中で、国会もオンライン会議を可能にすれば良いと思われますが、ことはそれほど単純ではありません。日本国憲法に「両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」(56条)との規定があり、この「出席」にオンラインによる出席が認められるかが議論になるからです。仮に「出席」は、あくまで対面出席を意味するということになれば、オンライン会議を認めるためには、憲法改正が必要となり、簡単には対応できないことになります。
そこで、この点について、衆議院憲法審査会で検討した結果、憲法56条の「出席」にはオンラインによる出席も認められるという方向になりました。今後、参議院憲法審査会の検討も経て、衆議院規則、参議院規則の改正が行われることになります。ただし、オンライン会議を認めるのは感染症のまん延のような緊急時に限るのか、あるいは議員個人の体調不良時も認めるのかといった点や、本人性(セキュリティ)の確保の方法、会議の模様を公開する方法、オンライン出席の議員の権限(表決のみか、発言・質疑も認めるか)など、様々な課題が残されており、今の通常国会開会中に議院規則の改正に至るのは困難な見通しです。
最後に司法部門です。今まで、民事、刑事の裁判は、紙(書面)と対面を基本として実施されてきました。ところが、ここにもペーパーレス化、オンライン化の波が押し寄せています。先行しているのは民事裁判で、これについては、今の国会に民事訴訟法の改正案が提出されています。その内容は、①訴状をインターネット上で提出できるようにする、②弁論に当事者(原告、被告など)がネットを通じて参加する「ウェブ会議」を認める、③判決は電子データで作成する、④訴訟記録は裁判所のサーバにアクセスして閲覧できるようにすることが柱となっています。この法改正が成立すれば、当事者は一度も裁判所に出向かずに判決を得ることが可能になります。
他方、刑事手続については、まだ政府内での検討が続いており、法案提出はもう少し先になりそうです。これは、私人間の紛争解決を目的とし手続きの厳格さが刑事裁判ほど強く求められない民事裁判と異なり、刑事裁判は、国家が強制的に刑事罰を科す手続きであり、捜査の秘密や被害者・被疑者のプライバシーの保護、裁判官の心証形成のあり方(被疑者や証人の法廷での様子をみながら判断する必要性についてどう考えるか)など、慎重な検討を必要とする論点があるからです。現在、法務省に設置された「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」で報告書のとりまとめが行われており、この報告書が法務大臣に提出されると、次は検討の舞台が法制審議会(法務省に設置。より権威が高い。)に移ることとなります。法務省は、法制審議会から答申を得て、2023年度における刑事訴訟法の改正を目指している模様です。
以 上