学部・大学院FACULTY TAISHO
社会福祉学科
大正大学社会福祉学会第45回大会が開催されました
2022年2月27日(日)午後、まん延防止等重点措置が全国で出される中、学内学会(石川 到覚会長)が、「ポスト・コロナの地域を見据えるソーシャルワーク実践とICT活用」をテーマに、オンラインにて行われました。
基調講演では、金 潔先生の進行により、『コロナ禍における中国のソーシャルワークを踏まえた実習教育』と題して、これまで教育・研究交流を深めております華東師範大学のICT教育を、郭 娟先生からご紹介いただきました。講演の柱は、①政府からのコロナ禍における実習の実施に関する指導意見、②コロナ禍における中国ソーシャルワーク教育界の活動、③ある大学のソーシャルワーク実習計画の制定過程や主たる規定、④ソーシャルワーク実習指導におけるオンライン実習事例でした。
ソーシャルワーク実習のガイドラインが示されたことによる方向性の明確化や、実習生の安全を第一に考えての心理的フォローやスーパービジョンの実施、実習の質の担保、今後、実習先のスーパーバイザーとともにオンライン実習プログラムを精査すること等の、コロナ禍における実習教育の振り返りをしてくださいました。加えて、コロナ禍における武漢のソーシャルワーカーの実践に関しても触れていただき、大変興味深くお話を伺いました。
上海におられる郭先生に講演をしていただけたことは、ICT活用の最大の利点ですが、一方で、途中何度かパソコンの画面が固まってしまい、お話が中断する場面がありました。このアクシデントは、学会やセミナーのオンライン開催ではよくあることであり、通信環境がもたらす課題を、身をもって体験しました。
なお、本講演の内容は3月発刊予定の『鴨台社会福祉学論集』第30号に掲載予定ですので、是非お読みください(「大正大学機関誌リポジトリ( https://tais.repo.nii.ac.jp/ )」でご覧いただけます)。
続くシンポジウムでは、実習指導室長の新保 祐光先生の進行により、3名の卒業生会員によるICT実践報告と2つの指定発言をいただきました。
冨松 奈央氏(八王子平和の家)は、知的障害のある利用者と支援者各々にとっての、ICT活用のメリットデメリットを整理した上で、支援者として、利用者の「大好きな人に会いたい!」という思いを実現するためのICT活用の取り組みを紹介すると同時に、「やっぱり会いたいね」という利用者の声にどう応えていくのかという、利用者の生活を彩るアイテムとしてICTをコーディネートする役割のあり方を模索している様子が伺えました。
神田 知正氏(井之頭病院)は、コロナ禍にあっての地域移行支援や家族支援プログラム開催への試行錯誤を紹介する中で、コロナ禍だからといってニーズがなくなるわけではなく、ICTを導入することで支援を停滞させることなく継続することができたと評価していました。対面の支援には敵わないものの、遠方の家族や他の病院の支援者とのコンタクトや連携がしやすくなる、新たなニーズの掘り起こしができるという可能性を報告してくださいました。
西岡 修氏(白十字ホーム)は、介護現場における、直接ケアの時間を生み出す業務省力化としてのICT導入の経過と、介護保険や介護報酬改定等の制度施策を視野に入れた評価をしていただきました。ICT導入時にはコストが掛かり、活用時には慣れが必要であるとし、通信環境と個人情報取り扱い等の安全性の検討が重要であり、記録や請求事務のデジタル化を通して得られたデータをどのように活用するのかといった、今後の課題を提起していただきました。
指定発言では、荒地 信子氏から児童館にお勤めの立場で、ステイホームが求められる中での居場所としての児童館の意義は大きく、ICTの活用はもちろんだが、空間を共有することも重要であると強調されていました。
大泉 圭亮氏からは、日本ソーシャルワーク教育学校連盟事務局にご所属のお立場で、全国のソーシャルワーク教育学校のコロナ禍における実習教育の状況を踏まえた上で、通信環境確保と情報保護や、実習プログラムにおけるICTの使い分けや対面との組み合わせの検討が重要であり、ICTを活用した教育実践とその効果を担保するために、今後さまざまな機関で研究や実践報告を積み重ね、取り組みをより可視化していく必要があるとの発言がありました。
実践報告や指定発言を伺うことで、領域は異なっても、ソーシャルワーク実践や教育におけるICT活用のミクロからマクロまでの現状と課題を知ることができた、大変有意義な時間でした。
総会の後、宮崎 牧子副会長の進行により行われた情報交換会では、コロナ禍にあっても、卒業生会員一人ひとりが、創意工夫をしながら実践を継続している様子が語られました。「大変なのは自分だけではなく、皆頑張っていると思うと元気が出た」との感想も寄せられました。
本大会は、第44回大会に引き続き、ソーシャルワーク実践や教育・研究活動などの取り組みを共有し合い、社会共生に向けた持続可能な地域づくりのための福祉課題を共に考える機会にしたいと開催しました。ソーシャルワークにおけるICT活用は緒に就いたばかりのため、今後も皆さんと情報共有や議論が深められればと思います。
(文責;沖倉 智美)