学部・大学院FACULTY TAISHO
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哲学・宗教文化コース
先生、質問です(5)
いよいよ大学も冬休みです。
皆さんは休みをどう過ごしますか?
人文学科は本好きが多いようで、このような質問が複数の学生から出てきました。
好きな本、お薦めの本は(哲学の本でも、哲学ではない本でも)? 好きな作家は?
春本先生の回答:
『いまをどう生きるのか 現代に生かすブッダの智慧 』(松原泰道・五木寛之共著 致知出版社 平成20年12月発行)
『儒教とは何か』(加地伸行著 中公新書 平成2年10月発行)
の2冊をお薦めします。
現実的に今をどう生きるのか、
中国哲学(諸子百家・儒教・仏教・道教)ではどのように考えるのか。
そこに活学としての価値はあるのか、無いのか。
この2冊はその解答を得る為の示唆に富む好著です。
一読をお薦めします。
それから、好きな作家は「五木寛之」です。
「五木寛之」さんは心の中で30年来の付き合いです。
星野先生の回答:
脳死・臓器移植問題を扱った、
小松美彦・市野川容孝・田中智彦『いのちの選択』(岩波ブックレット、2010年刊)
でしょうか。
臓器移植慎重派の主張です。
移植医療に懸命にたずさわる立派なお医者さんがいらっしゃることは承知の上ですが、やはり私はいまのところ、慎重派です。
小説家では井上靖という作家です。
学生諸君は知らない方も多いでしょう。
歴史小説と紀行文が好きです。
必要以上に飾らない文章、雄弁過ぎない文章が、奥ゆかしい感じがして好ましく思います。
時間があれば何度もでも読み直したいと思って井上靖の全集まで買って備えているのですが、時間が無くてなかなか実行できません。
司馬先生の回答:
絶対お薦めできないのが、町田康。
でも落ち込んでいる時は、「こんなんでいいのか」と思わせてくれる点で、一種の癒しになります。
哲学関係で入門としては、
谷徹『これが現象学だ』、
永井均『これがニーチェだ』(どちらも講談社現代新書)など。
教科書的なのは、
岩崎武雄『西洋哲学史』(有斐閣)。
あと、是非知っておいて欲しいのは『白バラは散らず』(未来社)。
哲学専門書としては、
フッサール『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』(中公文庫)、
マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)。
評論としては、
柄谷行人『トランス・クリティーク―カントとマルクス』(岩波現代文庫)。
良い入門書が並びました。
バランスをとるために、私(教務主任)は、一次文献を読むことをお薦めしましょう。
一次文献というのは、「ナマの声」のこと。
宗教文化の分野でいえば、信仰を持つ人たちが自ら語ったもののこと。
そのような「ナマの声」を集めて分析した、学者による研究書は二次文献といいます。
たとえば、ギリシャ・ローマ神話、北欧神話、アメリカ(先住民)神話、インド神話、日本神話など、神話そのものは一次文献。
入門書や授業では、これらの神話や聖典について説明しますが、それでわかったつもりにならず、時間がある時に自分でも本文を読んでみることは大事です。
仏教説話、『日本霊異記』も、先日、授業で、外国のスピリチュアルと比較するためにちょっと紹介したら、さっそく興味をもった人がいました(「霊異記」って、確かに文字から受ける第一印象は「何だろう?」ですね)。
その上で、二次文献である研究書を読むと、
神話や聖典のストーリーを楽しむだけでなく、
そこにどういう意味や成立事情が隠されているのかを知ることができます。
神話研究では、
J・キャンベル/B・モイヤーズ『神話の力』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
は、とっつきやすい入門書です。
たとえば、アフリカ系アメリカ人(アメリカ黒人)で、ギャング出身だが、刑務所でイスラームに改宗し、公民権運動(人種差別をなくすための運動)のリーダーの一人になった、マルコムX(写真右)の自伝。
『マルコムX自伝』(中公文庫や河出書房新社から出ています)
20世紀前半のアメリカの話なので、情景が思い浮かばない人は、先に映画『マルコムX』を観るとよいかもしれません。
本も映画も大正大学の図書館に入っています。
どのようにして人は信者になるのか、イスラームはアメリカ社会の中でどのような役割を果たしたのかを考えるのに役立ちます。
非暴力のキング牧師(写真左)とは異なり、力に訴えることを肯定したので、高校までの授業ではあまり出てこない人物かもしれません。
それでもお薦めするのは、決して暴力そのものを肯定するためではなく、なぜそのような思想が出てくるのかを理解することが、現在ますます必要になっていると思うからです。
質問:
お薦め、あるいはお気に入りの映画はありますか?
春本先生の回答:
最近、映画を観る時間がないので、お薦めできる最近の映画はありません。
しかし、11月に「フォローミー」のDVDを購入しました。
今までにVHSやLDにもなっていなかった幻の名作です。
DVDリリースのニュースを夏休み中の9月に知り、近所の専門店に即予約しました。
1973年、今から37年前の作品です。
キャロル・リード監督、ミア・ファロー、マイケル・ジェイストン、トポル出演のこの映画は、愛する事の歓びを分かち合う愛の物語です。
「人は、一人で生まれ、一人で死んでゆく。だけど一人では生きて行けない。愛する人を求め、人は彷徨(さまよ)う。ようやく出会えたその人を心の底から理解し、理解されようと懸命にもがき苦しむ。しかし、人が人を理解することなどそもそもできるのだろうか・・・。でも絶望することはない。共感はできるのだ。そして、思いやることも。」
と解説文にありました。
この冬休み中に家内と一緒に観る予定です。
・・・学生の時には自由な時間が多くあると思います。
より多くの映画を観ることをお勧めします。
(来年はウサギ年ですね。Courtesy of J. Pockele)
星野先生の回答:
最近は新しい映画を見に行く時間的な余裕もなく、
広い選択肢から薦めることができないのは残念です。
そのような事情ですが、自分の研究分野とのからみで、
5年ほどの前のものですが、1本あげてみます。
実は私の研究テーマのひとつは巡礼研究なのです。
スペインの有名な巡礼地サンチャゴ・デ・コンポステラ巡礼を舞台にした映画です(画像はサンチャゴ・デ・コンポステラの風景)。
遺産相続がらみの、欲に絡んだ兄弟姉妹、メッカ巡礼と間違えて参加したイスラームの少年たちなど、バラバラで自己中心的な人びとが、たまたま巡礼団を組んで出発するのですが、巡礼をしている内に次第に人間性が変容し、最終的にはそれぞれの人生の道を見つけるという話です。
後半はやや平板で楽観的過ぎるように感じますが、前半部分は人生を描いた映画としてはなかなかスリルを感じさせるところもあります。
この映画のことは来年春出版予定の私の書物にも触れています。
この映画の内容をもっと知りたい方は、井上順孝編『映画で学ぶ現代宗教』(弘文堂、2009年)をご覧下さい。
司馬先生の回答:
映画は、ここ10年、全く見ていないので、何もコメントできません。無粋ですみません。
先生方と同じく、私も趣味として映画を観ることはなくなってしまいました。
逆に、授業で紹介するために、宗教文化関係のもの中心にこまめにチェックはしています。
春本先生は、ご自分が学生時代にご覧になった思い出の映画をご紹介なさっているようですが、私の場合は、そういった映画の中では
「薔薇の名前」と「炎のランナー」を、
哲学・宗教文化に興味のある皆さんにお薦めします。
「薔薇の名前」は、イタリアの哲学者、ウンベルト・エーコが書いた小説をもとにした映画です。中世カトリック修道院が舞台で、ミステリー調ですが、アリストテレスの哲学とキリスト教思想を下敷きとし、現代にも通じる問題が重層的に描かれています。宗教ネタの推理ドラマということでは、皆さんは『ダヴィンチ・コード』を思い出すかもしれませんが、その先駆け的な作品です。
「炎のランナー」は、1924年のパリ・オリンピック出場を目指す2人のイギリス人大学生の実話をもとにしています。イギリス人といっても、1人は差別を受けてきたユダヤ人、もう1人はスコットランド人の牧師です。この2人を対比する形で進んでいくのですが、プロテスタントの中でも厳格な長老派の考え方がよく描かれています。走ること自体はプロテスタントの教えと矛盾しない、といいますか、19世紀イギリスに出現した「muscular Christianity(直訳は「筋肉的キリスト教」、映画の中では「剛健なキリスト教」という字幕)」というキリスト教思想が、スポーツを推奨したという背景があります。そう、近代サッカーやラグビーの推進役はキリスト教だったのです。主題歌は有名だしストーリー自体もおもしろいのですが、同じキリスト教でも、カトリックにはこういった考え方はないと知った上で見ると、見方が変わってくるでしょう。はたして牧師はオリンピックで勝ったのか?
それでは皆さん、以上をご参考に、冬休みを楽しく有意義にお過ごしください!