学部・大学院FACULTY TAISHO
哲学・宗教文化コース
秋の読書のお薦め
今回は、中国哲学がご専門で、浄土宗の僧侶でもあられる春本教授にエッセイの執筆を依頼させて頂きました。
春本先生がお薦めされる以下の対談集、秋の一冊に加えてみてはいかがでしょうか?
『いまをどう生きるのか―現代に生かすブッダの智慧―』(松原泰道・五木寛之 致知出版社 H.20.12.)を読んで
<天高く馬肥ゆる秋>とか<読書の秋>とか言います。暑かった夏が終わり涼しくなり、何かまとまって人生のことなど改めて考えてみたいと思うような季節になりました。
本年は東日本大震災や台風の自然災害を被り、改めて自然の脅威を知った日々であります。「いまをどう生きるのか」、これは人として生きていく上での永遠のテーマだと思います。自分自身、如何に生きていけばいいのか、人それぞれ環境も素質も異なり、こうでなければならないということはないとは思いますが、しかし、ある一定の原理原則があり、こうすればこうなってしまうということを歴史は教えてくれていると思います。そんな生き方のヒントを求めてひも解くのにいい本だと思います。<今は亡き松原泰道氏101歳>・<五木寛之氏76歳>の時の対談集です。仏の悟りとは何か。
釈尊は人生を苦しみであると説きました。「(松原)苦があるからこそ生きる意味が出てくる。」(153頁9行目)、そんな人生であると考えていたようです。「(松原)苦しいときは苦しむ。そういうところへ戻ってこなきゃだめなの。最初は感情だけで泣いたり怒ったりしますけど、一遍それを否定して、その後また元へ戻ってくる。それは否定の否定ですから肯定になるわけです。だから、悲しいときは思いきり泣いていいとなるんですね。」(201頁6行目)、「(松原)悟って、また元の煩悩に戻ってこそ他を救うことができるのです。」(206頁9行目)、更に、「(松原)自分にだけ与えられた悲しみ苦しみを味わうことによって、人々の苦悩がはじめて理解できる。すると人を慰めることができる。自分が苦労をすることによって人を喜ばせることができるわけです。」(214頁1行目)と松原泰道氏は言う。人生は楽しみではなくて苦しみだと始めから心得ておけば、そのための対処の仕方があるものだと思います。
五木寛之氏は「ブッダに多くの人がついて行ったというのは、彼の唱える思想が素晴らしかっただけではない。ブッダ自身が人間として魅力を湛えた方だったからなのでしょう。」(124頁1行目)、更に、「いかに不合理であろうが、人生にはどうしても信じなきゃいけないときがあります。・・・合理的だったら信じる必要はない。納得すればいいんです。宗教というものはそういうものではありません。だから「不合理ゆえに我信ず」というのは非常に大事な言葉ではないでしょうか。」(247頁5行目)、「世の中の闇や心の闇を、淡い光でもいいから、ほんの一瞬でもいいから、照らしてくれる。その光が射してくれば安心できる。仏教というのはそういう光なのだと思うんです。」(246頁1行目)と言う。人生とは苦しみの連続であり、人生にはどうしても納得のできない業縁のようなものもあり、進むも地獄、退くも地獄ということがあります。そんな中にあって一筋の光のようなものが仏の教えにはあるのだと春本も考えております。
この対談集は人生とは何か、仏教とは何かを考えるのに示唆に富む本だと思います。
『いまをどう生きるのか』、本書をひも解き、秋の夜長、人生についてちょっと考えてみませんか。
哲学・宗教文化コース 教授 春本秀雄