学部・大学院FACULTY TAISHO
社会福祉学専攻
2021年度春学期大学院招聘講演会
6月2日18時30分より、社会福祉実践分析研究Ⅰの授業において、聖学院大学の相川章子氏より「ピアサポート・ピアサポーターの実践と研究の動向」についてZOOMにて研究報告がありました。ご報告の見出しは以下の通りでした。
1.はじめに 〜自己紹介を兼ねて〜
2.ソーシャルワーク実践を振り返る 〜ピアスタッフと働いた経験〜
3.ピアスタッフ/ピアサポート研究へ
(1)リカバリーとは? 〜日本の精神保健福祉、リカバリー志向への変革の必要性
(2)ピアサポートとは? 〜“経験の語り”が紡ぐ対等な関係性〜
(3)リカバリーとピアサポート/ピアスタッフ
4.ピアスタッフ/ピアサポート研究から見えてきたこと
5.ピアサポート活動の実際と広がり
6.ピアサポート活動・ピアスタッフの活動から見えてきたこと
7.協働の実践へ向けて 〜ソーシャルワークとピアサポート〜
8.ピアサポートの未来 〜進化と深化を〜
ピアサポートの歴史を始め、ピアスタッフやピアサポートがいることの意味や役割、ピアサポートとリカバリーとの関係、「中動態」概念(國分功一郎氏)とピアサポートの近さ、対象化しない「我−汝」の関係、経験を語ること(リカバリーストーリー)が接着剤になること、日本とアメリカにおけるポジション分析(コンシューマー・プロバイダー・プロシューマー)と「葛藤」生成研究など、この領域の研究における最前線のご報告でした。また、ピアサポート活動の実際と広がりとしては、アメリカのユナイテッド・ピアズ、認定ピアスペシャリスト養成講習等の具体的事例紹介があり、この研究領域や活動が国際的なものであることを理解しました。
最後に、「ピアサポートをブームではなく文化に!」という、社会的に根付かせていくことの必要性について強いメッセージがありました。
■□■ご報告を伺って■□■
私自身は「支援する、支援される」という固定的になってしまう二項対立関係をどう超越するかという、極めて哲学的理論的かつ実践的で、時に深刻な問題を惹起する問いへの答えは、水平性つまり「ピア」が鍵の1つになることを感じさせるものでした。
専門職を置くことに理がある。何らかの経験がある者がリードする。これが絶対的な前提となると、無意識的に、専門職と経験者のみが能動性(態)を獲得し、そうでない人は受動性(態)の立場に置かれる。この二項対立の「極北」には、社会政策論的に見るならば、「専門家支配」「専門職支配」「経験者支配」によるソーシャルワークの逆機能あるいはパターナリズム、つまり垂直的権力関係も含まれ、あるいはそこまででなくとも、「専門職優位」の中での援助関係、人間関係のギクシャクや強い葛藤を孕んでしまう。
誰も望んでいなくとも、「地位」が関係性の磁場を形成する権力を潜在的に持っているという問題です。この関係性を回避するため、また水平性を垂直性に反転させないため、スタートラインから永続的な「対等」の関係が求められるわけですが、「専門職」と自己規定している限り、完全に逃れることはできません。そもそも、社会福祉に限らず人間関係では起こりうることでもあります。何らかの「制度」あるいは「習慣」は自己目的化に転化する「毒」を持つことへの警戒によってこそ、本来の専門職や経験者は生き生きとしてくるようにも思います。
一方で、この観点から導き出されるピアによるカウンター的修正というのもあるし、ピアこそが援助関係の中心・前提という立て方によって、援助関係や支援観の変容を迫る可能性を確保でき地平に立つことができるのかもしれません。援助関係というよりも、ピアの力動的な関係の可能性そのものに焦点をあてる。かといって、ピアの固有性などとすると、関係者の分断も起きそうです。少なくとも、水平な関係をどう維持していくかは、立場や地位を超えて関係者が常に意識していく、不断に修正していくことの「中」や「間」にしか答えはないのではないかと私自身は考えさせられました。
(松本 一郎)
【大学院生によるコメント】
受講した院生からのコメントを以下の通り、紹介したいと思います。
穏やかな語りの中に、先生の強い思いが伝わってくるご講義でした。
私が印象深かった内容のひとつが、「支援する−される」という二項対立から新たなポジションの出現と関係性の揺らぎ、という点です。新たなポジションを確立するということが、ピアサポート力の発揮に結びついていくと感じました。
(修士2年 大堀 直子)
従来の「支援する–される」という固定化された関係性ではなく、どちらもがそのポジションを行き来し、「支援する–される」という関係性を越えたところでのピアサポートの営みからは、ひるがえって固定化されたポジションがもたらすことの意味や影響、力の作用の仕方について改めて考える機会を頂きました。そして「支援する–される」の関係性を越えたポジションに立つピアサポートスタッフの役割や彼らの働きがもたらす影響、そしてピアサポートの営みから得られる視点や感覚、感情等が、既存の精神保健サービスの在り方への大きな問いであると感じました。
現状の精神保健サービスの文化を、より当事者の価値に寄り添い、当事者主体サービスへ転換していくためには今ある文化を再構築していく必要があります。そして講義の中でも触れて頂いた精神保健サービスの中だけではなく、地域社会における精神障害への差別偏見を解きほぐしていくひとつとして、病の経験を有する人による経験からの分かち合いや、ピアサポートの営みが、新たな文化形成にあたり非常に大きな可能性を持っているのだと感じるご講義でした。
(修士1年 佐々木 理恵)