学部・大学院FACULTY TAISHO
宗教学専攻
星野英紀先生の最終講義が行われました
6月8日(土)に、本学会顧問でもある星野英紀先生の最終講義が行われました(大正大学宗教学会2013年度春期大会と同時開催)。最終講義のテーマは「原発難民と「ふるさと」と寺院―福島浜通りの寺院檀信徒調査より―」であり、先生が現在最も関心を寄せている内容となりました。
本講義では、相双地域浪江町でのアンケート調査の結果をもとに、被災地の現状報告と今後の課題についての提言がありました。浪江町では、とある寺院の全面協力によって、壇信徒へのアンケートを先生ご自身が行い、そこから原発避難地域における檀家と寺院の関係、将来への期待などを中心に調査を進められたとのことでした。
このような調査から、生活や家族の為に帰還に消極的でありながらも、その底には墓や先祖を通じてふるさとへの思いが根強いことを調査から明らかにし、原発難民の方々は帰郷派・移転派いずれの立場でも、基本的には「ふるさと」への思いがきわめて強いとの傾向がみられたとのことでした。
そして、この「ふるさと」を支えているのが場所や人の縁であり、この儀礼的側面が先祖祭祀といった寺院が管掌しているものであり、このような地域と菩提寺と檀信徒のつながりを「寺縁」と提唱されました。しかし、原発避難によって寺縁が果たせなくなった今、寺院の可能性は、移転、帰還のどちらかであり、どちらにせよ関係維持・檀家数の減少といった問題をはらんでいることを指摘されました。
一方で、日本的伝統的共同体には、しがらみといったネガティブな面がありながらも、災害時には、共同体の絆の強さのポジティブな側面が表れることを示唆し、日本のように災害の多い国では、絆形成の要因の一つである文化、寺縁とともに、絆には厄介さがあることを覚悟しながらも、人間同士のサポート体制が重要であり、自由独立の個人を最善とする近代的社会観を多少修正する必要がある、と結ばれました。
最終講義風景
多くの方に御来場頂きました
星野先生からの御発表の後、コメンテーターである上智大学の島薗先生よりコメントがございました。島薗先生ご自身が、福島県伊達市や二本松市の仮設住宅で浪江町の避難者に出会った時のことのご紹介をいただきました。その中で「ふるさと浪江」という歌を一緒に歌い、まさに星野先生の御発表の中にある、「はぎ取られた」、「むしろ取られた」という言葉は、避難者の喪失感を表していると述べられました。そして、調査結果について、寺縁などといった様々な縁は、場所が消えても人々の中に残っていき、将来的な帰還に肯定する人たち、否定する人たちの両方にとって、共同体の崩壊を超えるような何かを与えているのではないか、とコメントをいただきました。
コメンテーターをお務め頂きました、島薗進先生
また、フロアからも質問がありました。本学の大塚伸夫先生からは、阪神・淡路、新潟といった地震と違い、福島では原発事故の要因が加わっているが、調査の中で大きな違いはあるのか、という御質問がでました。また、東京大学の堀江宗正先生からは、是非御発表、調査内容を本にして欲しいというコメントが寄せられ、継続的な調査の要望も述べられました。また、淑徳大学の武田道生先生からも、ふるさと意識が、職業や年齢によって違いが出るのか、分析を是非待ちたいとのコメントが寄せられました。フロアからは、もっと知りたいという、声が多くあり、大変な反響となりました。
最終講義後は、学内に新しく出来た鴨台食堂にて懇親会が行われました。懇親会にも多くの方が参加され、星野先生を囲み、和気藹々とした雰囲気で進行いたしました。
星野先生を囲んで記念撮影
懇親会の途中、一昨年まで本学にいらっしゃりました、藤原聖子先生より、花束贈呈が行われました。
花束贈呈
多くの方々が、最終講義並びに懇親会へとご出席下さったのも、先生の研究の御功績だけでなく、厳しくも優しい先生のお人柄によるものだと思います。最終講義ということで、一つの区切りとなりましたが、これからも大正大学宗教学研究室院生一同、これからも教えを請い、大先輩でもある、星野先生の研究に近付けるようにいたしたいと思います。
(文責・魚尾和瑛)
(この記事は、大正大学宗教学会のホームページの内容を掲載しております)
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