学部・大学院FACULTY TAISHO
宗教学専攻
【震災と宗教】2015年度第6回定期研究会が行われました
2月17日(水)大正大学宗教学研究室において、「震災と宗教」の第6回定期研究会が行なわれました。今回は前回、前々回に引き続いて、震災関連論文をレビューした後に意見交換を行いました。なお本定期研究会は、科学研究費基盤研究(C)「東日本大震災後の地域コミュニティの再編と宗教の公益性に関する調査研究」(代表:弓山達也)による研究の一端になります。
今回は、似田貝香門・吉原直樹編『震災と市民1―連帯経済とコミュニティ再生―』・『震災と市民2―支援とケア―』に収録されている論文3本と、本研究会分担研究者の黒崎浩行・國學院大學教授の論文「東日本大震災におけるコミュニティ復興と神社―宮城県気仙沼市の事例から―」を、本学の院生4名が各々紹介し、ディスカッションを行いました。
最初の報告者である福井敬さんは、『震災と市民』第1巻第10章の吉原直樹「帰属としてのコミュニティ―原発被災コミュニティのひとつのかたち―」について発表しました。論文では、大熊町の避難者が入居している仮設住宅地域を事例にして、ボランティアに注目したコミュニティ論が提示されました。それをふまえて発表者は、避難者がボランティアなどの「異なる他者」との交流により「元ある自治会」では得られないような関心を得て、それが外に向かうような可能性に拓かれていることを提示していると報告しました。本研究会で聞き取り調査を行っている宗教団体の仮設集会場での活動を捉える上でも示唆的であることが言及されました。
2人目の報告者である大場あやさんは、第2巻第6章の吉原直樹「エグザイルとしての原発被災者」についてレビューをしました。吉原は、原発被災者をE.W.サイードの「エグザイル」として捉え(追放/亡命を、被災/避難として読み替える)、近代の文脈における「故郷喪失」の特徴とその「故郷喪失者」が紡ぎ出す「何か肯定的なもの」を大熊町の避難者を事例にして明らかにすることを試みていることが、発表者によって報告されました。最初の発表と併せて、特にコミュニティの定義や事例の語りの内容について議論されました。事例のインタビュー調査内容については、吉原直樹『「原発さまの町」からの脱却―大熊町から考えるコミュニティの未来』に詳しいことが、両発表者より報告されました。
3人目の報告者である小林淳道さんは、第2巻第10章の堀江宗正「震災と宗教―復興世俗主義の台頭―」について発表しました。発表者によると、論文では、反経済主義、生命主義(いのち重視)、現状否定型の愛国心の広がりが「スピリチュアリティの覚醒」として捉られ、震災後の宗教やスピリチュアリティの位置や震災前後のそれらの変化が明らかにされようとしたことが述べられました。スピリチュアリティの定義や事例として挙げられているSNSやネットの意見の内容、復興世俗主義について、議論しました。
最後の報告者である松平寛正さんは、黒崎先生の論文「東日本大震災におけるコミュニティ復興と神社―宮城県気仙沼市の事例から―」について発表しました。論文は震災におけるコミュニティ復興と神社の関係について、宮城気仙沼市での調査に基づき検討したものであることが報告され、自然と共存した持続可能な防災・減災への探求に宗教が役割をもつことが可能であるという視点を指摘していることが発表されました。発表後の質問では、黒崎先生より論文には記載できなかった情報やその後の調査報告などを教えていただきました。
今回の発表では、コミュニティ論、復興世俗主義、調査対象や調査方法の吟味について、議論されました。議論を通して、大学院の講義などでいつも教わっているようにデータの代表性・妥当性・信頼性の大切さを改めて感じました。それとともに、「震災と宗教」を研究する意義についても深く考えさせられました。
研究会での報告中の様子
(文責:宮澤寛幸)