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宗教学専攻

【宗教学専攻】「宗教と社会」学会第25回学術大会に参加しました②

 今回は「宗教と社会」学会第25回学術大会2日目の様子を報告します(1日目はこちら)。
 
 午前中は1日目に引き続き個人発表が行われました。墓制ないし先祖供養をテーマとしたものや日本人の宗教性に関するもの、国内外の伝統宗教から新宗教を対象としたものまで様々です。 

 午後は各会場でテーマセッションが行われました。筆者は、本学の寺田喜朗先生と本学非常勤講師の松島公望先生(東京大学)が発題者を務められた「宗教研究において「実証的研究を行う」とはいかなることか」に参加しました。

 本セッションでは、心理学・文化人類学・歴史学・社会学の4つの立場から<実証的な宗教研究の方法と課題>について、各発表者の主著(博士論文をもとに執筆されたもの)をもとに検討がなされました。宗教にまつわる事柄や現象は、人々の信仰や心情に関わるため、研究対象として扱うには様々な困難が伴います。そうした対象を「どうすれば実証的に研究できるだろうか?」ということが議論の中心でしたが、とりわけディシプリンごとの研究上の手法について討議がなされました。
 なお、ここで言う<実証的な研究>とは、経験的なデータに基づいて研究を行うことを指しており、一次資料をいかに確保するかが重要な意味を持ちます。


趣旨説明を行う松島先生


各発表は、以下の順序で行われました。

▼発表
①心理学の立場から: 松島公望先生(東京大学)
『宗教性の発達心理学』ナカニシヤ出版、2011年

②文化人類学の立場から: 長谷千代子先生(九州大学)
『文化の政治と生活の詩学―中国雲南省徳宏タイ族の日常的実践―』風響社、2007年

③歴史学の立場から: 平山昇先生(九州産業大学)
『初詣の社会史―鉄道が生んだ娯楽とナショナリズム―』東京大学出版会、2015年

④社会学の立場から: 寺田喜朗先生(大正大学)
『旧植民地における日系新宗教の受容―台湾生長の家のモノグラフ―』ハーベスト社、2009年

▼コメント
櫻井義秀先生(北海道大学) 


 松島先生は、ホーリネス系教会の日本人クリスチャンを対象に、聞き取り調査(質的研究)と質問紙調査(量的研究)から得られたデータを踏まえ、彼らの宗教性発達を検討しました。

 長谷先生は、中国雲南省の徳宏タイ族を対象に、様々な場面での言説(音声資料)と行為の記述(観察記録)を中心とした写真・録画等のデータを駆使し、彼らの宗教的(無)意識と日常的実践を浮かび上がらせました。

 平山先生は、初詣の成立と展開および変質の過程を、新聞記事・広告や鉄道会社史、営業報告書、社務日誌、知識人の日記など、同時代性と当事者性を確保することが可能となる史料を総合する形で叙述を試みました。

 寺田先生は、台湾における生長の家の展開と入信者の信仰受容について、教団の内部資料や台湾国家図書館に所蔵されたマイクロフィルム(新聞・雑誌)等の文字資料に加え、現地信者へのライフヒストリー調査、質問紙調査、参与観察記録等を総合させ、彼らのメンタリティにアプローチしました。


発表を行う寺田先生 

 以上から分かるように、「何を一次資料とするか」「それをどうやって活用するか」は分野ないし研究の手法によって異なっています。こうした分野ごとの実証的な方法論を、しかもそれぞれの先生方の研究=実体験を踏まえて比較しながら示して頂き、非常に勉強になりました。

 また、実証性の追求だけでなく、それに伴う課題についても論及があり、「適度な実証性(限界を認識しつつも可能な限り経験的データを集積させ総合的理解を図ること)」および「対象に応じた適切なアプローチ」「研究成果からのインスピレーション・インプリケーション」の重要性など、これから博士論文を書こうとしている筆者にとってはまたとない学びの機会となりました。


発題者の先生方

 学会では、自身の研究発表をすることで得られることも多いですが、こうして他の発表(とくに先生・先輩方の)を聞いて、そこで語られた視点や手法、発想などを自分の研究に積極的に活用していくことも重要だと感じました。「私もこんな博論を書きたい!」と思いを新たにしたところです。その気持ちを糧にこれからも研究を頑張って進めていこうと思います。

(文責・大場あや)

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