学部・大学院FACULTY TAISHO
宗教学専攻
【宗教学専攻】浜通りフィールドワーク② 訪問編
MD宗教思想史特論では、震災「後」文化の現状を学ぶため、文献調査だけではなく、7月20・21日に、福島県いわき市の浜通り地域へ、弓山達也先生と院生3名にてフィールドワークに向かいました。
初日は、「UDOK.」、夜の森地域、東京電力廃炉資料館、ふたばいんふぉ、結のはじまりを訪問しました。「UDOK.」は、本講義で取り上げたテキストの一つ、『新復興論』の著者である、小松理虔さん達が運営しているオルタナティヴスペースです。
ふたばいんふぉは、双葉8町村の現状を共有し、広く伝えるために、民間団体である双葉郡未来会議により開設された施設です。双葉8町村は、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故に伴い、その大半が帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域に指定され、解除されないまま現在に至っています。
初日のフィールドワークで特に筆者(中塚)が印象に残っているのは、夜(よ)の森(もり)と結(ゆい)のはじまりです。
夜の森は、福島原発から約6~7キロほどに存在する地域であり、現在でも帰還困難区域となっています(写真①)。そのため、立ち入り禁止区域の線引きのための柵が、地域の各所に存在しています。
写真①
震災後8年を経た今でも屋根の補修が行われていない民家が点在する一方で、道を一本挟んだだけで生活が再開されているという、期間困難区域の現状を目の当たりにしました。実際に現地を訪ねたことで、『新復興論』でも議論されていた、政府が、住民の意見を取り入れず、原発との距離のみによって理不尽な線引きを行った問題について、より深く理解することができました。
結のはじまりは、震災後、「ふくしま復興塾」という人材育成プロジェクトで福島を訪れた古谷かおりさんが、地元に戻った住民と作業員との間にある大きな溝や誤解に問題を感じ、それを解消するための交流の場として立ち上げた小料理屋です。
私達も初日の夕食に訪れました。地方新聞の記者の方や第一原発の作業員と思われる方々もおり、地域の高校の演劇祭や、私たちも参加した翌日のワンダーファームのイベントなど、復興活動や、文化活動などについて、お話を聞かせていただくことができました。
2日目は、久ノ浜やいわき市地域防災交流センター久之浜・大久ふれあい館、ワンダーファーム、いわき回廊美術館、中之作プロジェクト清航館を訪ねました。大久ふれあい館は、東日本大震災で甚大な被害を受けたいわき市久之浜地区に、津波発生時の避難先として建設された施設です。ここでは、津波の教訓を後世に伝えるために設置された資料室を見学しました。
震災後に設立されたワンダーファームは、震災以前の盛んだった農業を再興し、福島に活気を取り戻すことを目的としています。そこで、日照時間が長い地域の特徴を活かしたトマト栽培に力を入れ、様々なイベントも企画・開催されています。21日にはワンダーマルシェが開催されており、震災後、市川英樹さんが代表を務める「福島田んぼアートプロジェクト」とのコラボもなされていました(写真②)。
写真②
いわき回廊美術館は、いわき市にゆかりのある世界的な現代美術家である蔡國強氏といわき万本桜プロジェクトが共同してオープンした施設です。
中之作プロジェクトは、震災後、失われていく古民家の町並みを保持・維持・保存するために創設されたNPO団体です。清航館(写真③)は、その活動により修復され、今は「レンタル古民家」として、様々なイベントの会場(当日は、「つきいちマルシェ」というハンドメイドの商品の販売や、ワークショップなどを行っているイベントが開催されていました)として用いられています。
写真③
今回のフィールドワークでは、本講義の目的である「震災後の文化活動」という議論と関係が深い場所を訪ねました。その中で、夜の森の立ち入り禁止区域など、各所に震災の被害が残っており、今もまだ復興の最中であるという現状を目の当たりにしました。一方で、「福島田んぼアート」や「中之作プロジェクト」、いわき回廊美術館など、新たな文化を創造する萌芽となる活動が行われていました。そして、こうした個々の活動を結い上げる人の繋がりが存在していることを学ぶことができました。
今回は、浜通りフィールドワークの概略でした。次回は小松さんにお聞かせいただいたお話について報告したいと思います。
(文責:中塚豊)