学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

比較文化専攻

星川啓慈教授、大阪の太閤園(ダイヤモンドホール)にて講演!――「宗教間対話の歴史と現代におけるその必要性」

はじめに

12月3日、大阪の太閤園(ダイヤモンドホール)において、「現代宗教対話協議会」が主催するフォーラム「現代社会に貢献する宗教の意義――対立による紛争を調和的解決に導く宗教対話の可能性」が開かれました。

そこで、私は講演をおこない、パネルディスカッションにも加わりました。講演題目は「宗教間対話の歴史と現代におけるその必要性」です。

参加者は、仏教者やキリスト教者などの宗教関係の方々がおよそ70名、一般の方々がおよそ80名でした。開始は午後1時で、終了は午後5時30分でした。

チェロの演奏に始まり、2つの講演、竹内日祥上人のお話、パネルディスカッション、フロアからのコメントなど、きわめて活発な集いとなりました。

会場の皆さんは、長時間にわたって、本当に熱心に、メモをとりながら聴いてくださいました。

さらに、その後の懇親会でも、話し合いが続きました。 

 1.JPG

 

フォーラムの開始

第4回目になるフォーラムは、小林隆彰理事長(天台宗総本山比叡山延暦寺長臈)の開会のご挨拶に続いて、ベアンテ・ボーマン牧師のチェロ演奏に始まりました。

 

13.JPG

 

B・ボーマンさんのチェロの演奏

 ボーマン牧師は、スウェーデン生まれで、ポール・トルトリエやアルト・ノラスなどの大家に師事し、1980年から31年間にわたり、東京交響楽団の首席チェロ奏者を務められ、現在はフリーで多彩な活動をされている音楽家です。プロテスタント宣教師、山岳写真家(受賞多数)などの肩書もおもちです(最後に今年のカレンダーの表紙を掲載させていただきました)。

 バッハとエルガーのチェロ曲、そして、スペインのカタロニア地方の「鳥の歌」を演奏されました。「鳥の歌」は、パブロ・カザルスが1971年に国連総会で演奏したことにより、世界の多くの人々が知るところとなりました――その様子はインターネットで簡単に見られます(注1)。「カタロニアの鳥は、ピース(平和)、ピース(平和)と鳴く」のだそうです。

  12.JPG

  ボーマン牧師の演奏に続いて、私とフランコ・ソットコルノラ神父が講演を行ないました。以下、その内容を載せておきます。 

星川教授の講演

「宗教間対話の歴史と現代におけるその必要性」

 

はじめに

 

1 宗教間対話の歴史

1.1 ピコ・デラ・ミランドラの「哲学・神学対話」

1.2 万国宗教会議

1.3 第二バチカン公会議

1.4 キリスト教諸派の動き

1.5 湾岸避難民救援実行委員会(GEREC)

1.6 宗教間・文化間対話のための国際センター(KAICIID)

 

10.JPG

2 宗教間対話の意義とその必要性

2.1 環境保全、難民救済、貧困の消滅、女性の地位向上、宗教がからむ戦争の抑止や早期終結 など、人類が直面している現実問題に対して、諸宗教が協力してさまざまな貢献ができる。

2.2 諸宗教の信者たちは、対話を通じて異質な宗教を知ることで、自らの宗教を新たな視点から見直すことができる。つまり、他宗教を知ることで、自己ないし自宗教を、他宗教の視点を通してさらに深く理解することができる。

2.3 自分たちの宗教の絶対性・唯一性・至高性に固執しないことに繋がる可能性がある。つまり、他宗教を充分に尊重し、「他宗教と共存しながら、宗教者として助け合っていこう」という態度が芽生えることが期待される。

3 戦争と宗教間対話

3.1 平和について

3.2 戦争に対する3つの立場

3.3 「正戦論」の立場

3.4 戦争はなくなるか?

3.5 複雑化した現代の戦争

3.6 宗教と「人の心の中の平和の砦」

3.7 人の心の中に「平和の砦」をつくるために

 

おわりに

 

ソットコルノラ神父の講演

「内側からの体験した諸宗教対話」

 フランコ・ソットコルノラ神父は、イタリア生まれで、現在、聖ザベリオ宣教会司祭、真命山諸宗教センター長を務められています。1978年に来日されて以来、日本を中心に世界的な活動されています。その活動ぶりはインターネットで見られます(注2)。

 神父のお話は次のようなものでした。

 

 1 どうしてカトリック神父であるわたしは諸宗教対話に入ったのか

1.1 歴史的に

1.1.1 第二ヴァチカン公会議の「キリスト教以外の諸宗教に対する教会の態度についての宣言」(1965)と教皇庁諸宗教対話評議会(=PCDI)の成立:「対話と宣言」1991、「Dialogue in Truth and Charity」2014

1.1.2 日本カトリック司教協議会・諸宗教部門の「カトリック教会の諸宗教対話の手引き(2009)

1.2 原則として

1.2.1 相手に対しての尊敬、相手についての関心

1.2.2 真理に対しての尊敬、真理についての関心 

 9.JPG

2 どういう風に、わたしは諸宗教対話を生きているのか

2.1 古川泰龍先生との出会いと真命山の創立 (1985-1987)

2.2 PCDIの顧問としての経験 (仏教とキリスト教との間の対話)

2.3 真命山での対話の生活、活動 (パワーポイント)

2.3.1 「蜻浦」

2.3.2 真命山の創立

2.3.3 自然の中での祈り

2.3.4 地元の人と共に

2.3.5 いろいろの宗教者との出会い

2.3.6 諸宗教の代表者の平和のための祈りの大会

2.3.7 「対話」の養成

2.3.8 「対話の神学」の研究

2.3.9 国際諸宗教対話に参加

 

3 諸宗教の協力の対話: 古川泰龍先生との日中の交流の中での活動

 

パネルディスカッションの模様

 2人の講演を受ける形で、パネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションは竹内上人の「現代社会に、われわれは今、グローバリゼーションという、かつてない新しい時代を迎えつつある」という言葉から始まりました。 

竹内上人は、日蓮宗の妙見閣寺の代表役員、ドイツ大聖恩寺理事長を務められています。また、統合学術国際研究所理事長、現代宗教対話協議会理事も兼務されており、バイタリティーにあふれたご活躍をなさっています。

 8.JPG

現代社会には、3つの「落とし穴」があるというのが、上人の主張です。つまり、「民族や宗教の対立」「貧富の格差の拡大」「文化の画一化」の3つです。

つぎに、資本主義的な世界経済の体制が、今後ますます恐ろしいスピードで進むことにより、「人類全体を巻き込む世界の文化の画一化が強要される」ことに対する危惧を訴えられました。

結論は、種々の宗教から成る「宗教共同体」を創設し、世界の宗教界はそうしたグローバリズムに一致団結して立ち上がらなければならない、というものでした。 

7 (2).JPG

 

おわりに

宗教は「自分がいかなる人間であるか」「世界はどのようなものか」「正しいこととは何なのか」「われわれは何をなすべきか」などという問題に対する答えを与えてくれます。ですから、自分の宗教は「かけがえのないもの」です。

その一方で、「かけがえのないもの」であるということは、他宗教を排する「排他主義」や、「宗教同士の対立」という深刻な状況を生み出す可能性もはらんでいます。

グローバル化された世界、異なる宗教を信じる人々が共存している世界では、これらを回避する手段を考えなくてはなりません。種々の宗教が存在している状況(宗教の多元的状況)は、是非とも、宗教の「対話主義」や「自己ないし自宗教の理解の深化」に結び付けるべきです。こうした意味において、今後ますます宗教間対話の必要性が高まるでしょう。

 

2015calendar.jpg ボーマン牧師の「2015年のカレンダー」の表紙

 

付記

 フォーラムの中では、興味深い意見も数多く見受けられました。最後に、そのうちのいくつかを紹介しておきます――芸術を平和実現に役立てよう、自らの宗教と違う他宗教に存在する「相違点」を積極的に認めよう、一方的に悪を排除するのではなく「善と悪を統合」させよう…。

 また、フロアからは、「核廃絶の運動を推進している」という報告や、「やはり実践が大切だ」という意見なども出されました。

 

【注】

(1)https://www.youtube.com/watch?v=frizJZee0dE

(2)http://www.shinmeizan.org/index.php/jp/home/

 

【参考文献】

星川啓慈・石川明人『人はなぜ平和を祈りながら戦うのか――私たちの戦争と宗教』並木書房、2014年。本体価格=1500円。

 https://www.tais.ac.jp/library_labo/learning_commons/blog/20140530/24913/

 

 

星川啓慈(比較文化専攻長)

※自分のことを「星川教授」というのはおかしいかもしれませんが、統一を図るために敢えてそのようにしました。