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比較文化専攻

大正大学大学院比較文化専攻の修士論文のご紹介

2020年度3月に大正大学大学院文学研究科比較文化専攻の修士課程を修了した学生の修士論文をご紹介いたします。

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後期ビートルズの歌詞にみる文学性
登松優一郎

 本研究では、ビートルズの活動を前期と後期に分け、後期の歌詞における変化を分析し、ビートルズが果たした文化的、社会的役割を追究することを目的とした。前期の歌詞は代名詞を多用することで、聴衆の誰もが自分自身を歌詞の内容に当てはめることができ、主題も恋愛が中心であったのに対し、後期の歌詞においては固有名詞が使用され、聴衆は容易に自分自身を歌詞に当てはめることはできなくなった。
 しかし一方で、当時若者を巻きこんで隆盛を見せていたヒッピー文化など、社会的な状況に目を向けると、多義的な「読み」が可能になる。「聴衆」から「読者」へと視点を移すことによって、後期ビートルズの歌詞を「歴史的文脈から生まれた1つの文学作品」として捉え、後期ビートルズの歌詞がどのようなメッセージを発信し、また、後期ビートルズの歌詞を同時代の、あるいはその後の時代の人々にどのように受容されたかという問題について分析した。そして、最終的に「後期ビートルズの歌詞は社会に何を訴えたのか、あるいは今も何を訴え続けることができるのか」という問題を考察した。
 そのために、後期ビートルズの歌詞だけではなく、ビートルズ自身がどのように自分たちが構築したアイドルのイメージを壊し、さらにどのようなイメージを再構築していったのか、また、再構築し後期に作品を発表する際には、アイドル時代のファンが求めるものや世間との間にどのようなズレが生じたのか、その世間とのズレをビートルズはどのように克服したのかという2点を分析した。そして、ビートルズ自身にとって、後期とはどのような時代であったのかも併せて明らかにした。
 第1章では、主にアメリカを中心としてイギリス、ドイツの3つの反戦運動を比較し、1960年代後半の歴史を分析した。さらに、当時隆盛していたヒッピー文化や、第3世界を標榜した反戦運動の急進化、終焉と、ビートルズは、運動だけでなく、1960年代後半の文化全体に影響を与えたと分析した。
 第2章では、1960年代後半のビートルズの歴史についてまとめた。前期は、テレビ、ラジオの影響と、ブライアン・エプスタインの戦略により、前髪を長く垂らし、スーツを着た風貌、加えて、リヴァプール訛りを前面に押し出したことで、主に10代の消費意欲の強い「ベビーブーマー」と呼ばれる人々に音楽を通し、帰属意識を持たせたと分析した。しかし、ライブ活動を停止し、スタジオでアルバム製作をするようになってから、物語調の歌詞や容貌の変化が起き、個人主義の萌芽が芽生え始め、ブライアン・エプスタインの「死」と、ビートルズの個人会社である『アップル』の経済的困窮により、グループとして、協力して音楽を作るという当初の姿勢が瓦解し、どのメンバーが優位に立つかという個人主義が台頭したため、解散してしまったと分析した。つまり、ビートルズにとって、1960年代後半という時代は、「アイドルグループ」からの脱却と、グループという共同体から個人主義に変容した時代であると結論付けた。そして、1960年代後半の社会の中にいる人々は、解散後も共に歩めると思っており、後期のビートルズを音楽を通して人々を先導する「導師」として捉えたと分析した。
 第3章では、主にジェラール・ジュネットの物語分析の方法と、スタンリー・フィッシュの「読者反応批評理論」の方法を使い、共通の価値観を持った「ヒューマン・ビー・イン」のヒッピー、アメリカSDSに存在する反戦運動従事者、「ブラック・パンサー党」に属する公民権運動参加者に注目して、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、「レヴォリューション」、「ブラックバード」の3曲を、歌詞の背景とともに分析し、その結果、当時の社会に内在する不安や不満を解決していこうとするも、理想と現実が乖離しているため、どんなに穏健な運動を展開しようとしても後戻りが出来ないという感情があったと分析した。そのような人々をビートルズは、社会の外、または、内側から警告したり、時には警告したりしながら、人々を音楽で導く導師の役割を1960年代後半の社会の中で果たしたと分析した。
 第4章では、スタンリー・フィッシュの「読者反応批評理論」と、アルフレッド・シュッツの「限定された意味領域」を使って受容分析を行った。また、ロラン・バルト『現代社会の神話』における神話分析の理論とエドワード・サイードの「遅延性」の概念と「アイロニーとしての死」の概念を援用し、後期ビートルズが前期の神話をどのように塗り替えていったのか、どのようにズレを克服したのか、また、現代社会に何を訴えたのかを、上記の理論とロラン・バルトの「作者の死」を援用し、分析した。そして、1960年代後半の社会の中では特定の「解釈共同体」の中にいる人々にしか通じず、人々は1960年代後半のビートルズを思い出すものとして受容し、現代の「解釈共同体」の中では、人々に1960年代後半の時代の空気を思い出させるものとして、機能していると分析した。
 そして、「読者」の存在を想定する本研究の方法は、歌詞を深く捉えるために有用であると分析した。

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