国際教養コース

仏教との関わり
今でこそ仏教学の研究者と自称できるようになりましたが、私はごく平凡なサラリーマンの家庭で育ち、小さい頃から仏教に興味を持っていたわけではありませんでした。それでも私の家系は、お寺への寄進ということで仏教との関わりがあったようです。私が知る限り一番古いご先祖は、江戸時代の後半、豊後（現在の大分県）から越前（現在の福井県）に移り住んだ米澤庄左衛門です。この人物は、天保の大飢饉で亡くなった人々の供養として大仏を建立したとき、寄進者の一人でした。祖父・庄次郎は、私が生まれる前に亡くなりましたが、台湾で裁判官、出身地の武生市（現在の越前市）に戻ってからは弁護士として活躍していました。その祖父は、菩提寺である唯信寺の本寺に、戦前は親鸞聖人像（戦時中に金属供出となったようです）や、戦後は蓮如上人像を寄進したようです。ちなみに、私の両親の仲人はお坊さんだったそうです。

仏教学の世界へ

祖父の話を伝え聞いていた私は、高校生のころまで法学部志望でした。いざ大学受験となった際は、韓非子などの中国哲学へと興味が移り、文学部に入学しました。さらに大学入学直後、1年生では単位取得はできないのを承知で、サンスクリット語の授業に顔を出してみました。今振り返ると、この授業を休まず受講してしまったのが研究者となるきっかけとなったといえます。その担当教員であった渡辺重朗先生とは、後年、成田山仏教研究所で再会することとなりました。

大学4年生になって、よくわからなかったサンスクリット語のテキストを扱う卒業論文を執筆しました。そして、大学卒業後、修士課程から大正大学に入学し、サンスクリット語のテキストにこだわり続け、博士課程まで進学したのでした。博士課程に進学した際に、修士論文で取り上げたテキストのサンスクリット語写本冒頭部分を写真で閲覧することができました。その結果、日本印度学仏教学会で初めて学会発表をすることができました。

オランダ留学とサンスクリット語写本調査

私の研究における原体験ともいえる経験が2つあります。それはオランダ留学とチベットなどでのサンスクリット語写本調査です。

博士課程の3年次に、指導教授の松濤誠達先生に推薦していただき、オランダの（国立）ライデン大学ケルン研究所に留学することとなりました（留学当時は大学名に「国立」を冠していました。ケルンとは『法華経』サンスクリット語校訂本で有名なヘンドリック・ケルンに由来しています）。オランダでの指導教授は、ティルマン・フェッター教授。当時、日本語論文は読んでもらえなかったという経験があるので、学術論文は主に英語で執筆するようになりました。

オランダから帰国したのち、大正大学綜合仏教研究所の一員として、チベット自治区に所蔵されているサンスクリット語写本研究に加わりました。北京の民族文化宮にある中国民族図書館での調査、そして、ラサ市にあるポタラ宮での学術調査に参加できたのでした。これまでポタラ宮所蔵サンスクリット語写本の現物に接することができた研究者は、世界中で大正大学学術調査団のメンバーだけだと思います。その写本調査から20年以上経過しましたが、そのときの興奮は今でも忘れられない経験となっています。

今後の研究について

中国民族図書館での調査の結果、『チベット・ウメ字転写梵文写本集成影印版』が出版されることになりました。それに含まれる新出テキストについての研究を博士論文としてライデン大学に提出することができました。その出版はいつになるかわかりませんが、ぜひ実現したいと思っています。なお、その他の所収テキストについても研究を継続しています。

ポタラ宮での学術調査の成果として『維摩経』・『智光明荘厳経』の影印版などの出版が話題になりました。実は、その他にも閲覧することができた貴重なサンスクリット語写本があります。そうした情報も今後さらに開示していきたいと考えています。

本文中に紹介されている米澤先生の博士論文は以下のリンクから読むことができます！
https://scholarlypublications.universiteitleiden.nl/handle/1887/79823

米澤先生の経歴やご専門についてもっと詳しく知りたい方は、以下のリンクをご覧ください。
https://researchmap.jp/7000024349