学部・大学院FACULTY TAISHO
国際文化コース
「カルスタ進歩ジウム」通信⑤
「カルスタ進歩ジウム」と題して一年間の集大成のシンポジウムを開催してはやくも1ヶ月、春らしい気配も感じられるようになりました。
第一回目の開催となった「カルスタ進歩ジウム」は学生主導型のプロジェクトを遂行することによって、企画力、協調性、そしてコミュニケーション能力を高めることがねらいでした。
さあ、この経験によって学生たちはこれらの力をつけ、他では得られない自信を得ることができたでしょうか。授業は教員が到達目標を設定し、課題を明示し、学生たちに方向性を示します。それぞれの授業で身につけた知識やスキルを持ちより、基本的な概要以外のことは何も指示されないところから一つの企画をたて、運営するということは、大学1年生、2年生にとってはとても大変なことだったと思います。
リーダーを中心に、それぞれが自分の役割を果たすためには、きちんと自分の考え、意図を伝えなければなりません。カフェテリアで気軽に相槌を打っているようなコミュニケーションからは、創造的なアイディアは生まれません。これまで「カルスタ進歩ジウム」通信では、発表やディスカッションの内容について報告してきましたが、じつは巧みに仕掛けられた工夫もたくさんありました。たとえば、シンポジウム開幕においての「ラジオ体操」。「これから頭を働かせて、ディスカションできるように、身体も頭もめざめさせましょう!」という呼びかけで、あの懐かしい聞き慣れた音楽と号令が会場に流れると、たちまち緊張がとけました。発表する学生も、企画・運営の責任者の学生も、これでリラックスして自分の本来の力を発揮することができました。
こういうアイディアは授業では生まれません。すべてを委ねられたとき、主導権を与えられたときに、学生が発揮する力です。シンポジウムの最後には、スタートとゴールを指定した連想図をグループで作り上げていくというゲームが用意されました。夢中になって連想図を描いたあと、司会者から「このように文化はネットワークを作っているのです。表面的には目に見えないつながりも、こうやって関連性を探していくと、バラバラのものではなく、互いに意味を支えあっているということがわかるのです」というまとめがありました。秀逸な構造主義の実践プログラムでした。
さて、企画委員のたてた午後のシンポジウムのタイトルは「ファンタジーのなかのキャラクターの役割」。
そのなかで印象的だったのは「ディズニーアニメ『不思議の国のアリス』のなかの王子キャラクター」でした。この発表のおもしろさは「ディズニーのアニメは王子とプリンセス(またはプリンセスになる女の子)によって成り立つ」という前提をたてたことです。
私たちは文化を消費します。消費するときには、そのものが持つ性質をあらかじめ予想します。チョコレートを食べよう、と思うときは、すでに甘い味を想定しています。レストランに入るときにも、デパートで買い物をするときにも、雑誌をめくるときにも、私たちはほしいものがそこにあることをほぼ予測しているのです。この音楽を聴けばこういう気分になれる、ということろまで、私たちは自分の欲求に応じて選択することができます。
発表の趣旨を要約すると以下のようになります。
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ディズニーアニメにはプリンセスとプリンスが出てくる、それはディズニーが初めて制作した長編アニメ『白雪姫』から脈々と連なるお約束、と私たちは期待している。にもかかわらず、青いドレスに白いエプロンというおなじみのアッパーミドルのお嬢様のファッションに身を包んだアリスだけはプリンスに出会うことなく、元の世界に帰ってしまう。それは原作があるのだから、ということになるかもしれないが、そこはディズニーの作品ではないか。まったくプリンス的な要因を抜きにして、アニメ作品を作り上げるこちはできないのではないだろうか。ということで一つひとつの物語要素を分析してみると、アリスがジェンダー依存するものが、あるときはウサギとして、あるときはチシャ猫として、あるときは歌う花として現れる。たしかに『不思議の国のアリス』に王子はいないが、その役割はさまざまなものに分散され、アリスを疑似的にプリンセスにしているのである。
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とても独創的でおもしろい分析だと思いませんか? もちろん反論もあると思います。じっさい、シンポジウムの質疑応答でも疑問は投げかけられました。でも、誰もが納得する意見がいい見解であるとはかぎりません。オリジナリティのある意見には、かならず反論が起こります。異なる見解、違う意見を引き出すことのできる分析が、じつは豊饒な議論を生み出すのです。
カルチュラルスタディーズコースの目標は、自分で考える、自分で分析する、そしてそれを相手に伝わることばで表現する、ということ。恐れずに自分の意見を言い、率直に議論を交わす力を、これからも互いに磨きあいたいと思います。♪♪♪