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カルスタ、あれこれ(緊急掲載)――卒業論文執筆の極意!
卒業論文執筆の極意!
過日の2年生向けの授業で「卒業論文(修士論文)執筆上の心構え」なる資料を配布しました。A3判1枚のコンパクトなものです。今回のブログでは、それをさらにコンパクトにして、その骨子だけを紹介します。
なお、要点は今回のブログで述べるとおりですが、もしも全文をほしい読者がいれば、5号館3階でエレベーターを降りると、すぐ左側においてあります。自由に持っていってください。カルスタ以外の読者でも結構ですよ、大学院の方でも。
なお、以下の内容は、かなりの一般性をもっていると思いますが、筆者の個人的な見解です。また、テーマの選択の最初のものについては、4年生にはあてはまりません。あらかじめ、お断りしておきます。
卒業論文執筆の極意は、「安易な道はない」ことを早いうちに自覚することです!
卒業論文は、発想力・論理的思考力・情報収集力・コミュニケーション力・文章表現力など、あなたの総合力が要求されます。その分、やりがいがあるでしょうし、素晴らしいものを書ければ、卒業時の喜びとなり、さらには生涯の宝物にもなるでしょう。
「テーマ」の選択について
1)卒業論文(卒論)のテーマはなるべく早く決めよう! 就活もあるので、2年生の秋学期の最初までに決まると理想的である。勉強が系統的になり、ロスが少なくなる。
2)書きたいこと/書いて楽しいことをテーマに選ぶのが鉄則! もちろん、完成までには辛いこともたくさんあるだろう。しかし、基本的に論文を書くことを楽しめなければ、長続きしない。書くことは自己表現/自己実現の一形態であり、面白いことだと思う。最終的には、自分に才能がないことを自覚することになるかもしれない。だが、これは、それだけ思索が深まったことの証拠! 決して、気落ちする必要はない。
3)「テーマの選択は論文の出来の半分を決定する」といっても過言ではない。なぜそのテーマを選んだのかを、明確に自覚し、他者に明確に伝えることができるようにしておく。
4)時間や資料や能力の面で、「自分が考えたテーマによる執筆が可能か」について熟考する。「書きたいこと」と「書けること」とは必ずしも一致するとは限らない。違うことが多い。自分の身の丈にあわせたテーマの選択を心がける。
6)自分が選んだテーマについての研究が「現在どうなっているのか」を知る。学説史や研究史をおさえ、どういう点が問題になっているか、問題になりうるか、などについて考えてみる。
7)自分が選んだテーマに関する/関連する新しい著書・論文を読めば、これまでの業績が踏まえられていることが多い。注や文献表を手掛かりとして、関連する先行研究を追う。何人もの研究者が挙げている文献は、たいてい重要である。
8)卒業論文のテーマに迷えば、関心のある分野の名著1冊を徹底的に読み込むことを勧める。1度ではダメ、最低3回は読み込む。
執筆について
1)論文である以上、論じなければならない。そのためには、事実/引用/論理的な根拠などによる裏付けが必要である。たんなる感想文や調査報告書やレポートにならないように。最後には、きちんとした結論/主張が明示されなければ論文ではない。
2)論文は詩などの芸術作品ではないので、「起承転結」はダメ。基本的に「起承承…結」でなければならない。さらに、「起」と「結」が対応していなければならない。関連のない章を4つ並べても、論文にはならない。これは「1章×4」でしかない。
3)文章は簡潔かつ的確に。長い場合でも、文章構造は明確に。大した内容ではないのに、文章が混乱していて、読みにくいだけのものもある。冗長な文章/長すぎる文章/構造が分かりにくい文章は書いてはいけない。かなり古いが、『理科系の作文技術』(中公新書)が参考になるだろう。
4)今はパソコンがあり、いつでも編集できる。時間のあるうちから、どんどん書いておこう。最後に一気に書き下ろすというのは、やめた方が賢明である。
5)分量の見当をつけたうえで、大体の構成(章と節)を決める。すなわち、目次を作り、各節の要旨を書いてみる。これがしっかりできれば、論文は半ば完成しているといえる。しかし、なかなかうまくいかないのが普通である。何度も何度も構成を考え直すことになるだろう。
6)何でも調べたことはすべて書き連ねることは止める。品がない。最終的に捨てる部分は、惜しまず捨てる! どれだけ捨てられるかが、論文の質を決定する。もしも、調べたことの8割を捨てられたら素晴らしい。残っている部分は、論文にとって極上の部分だけだから。
7)資料・能力・時間・論文の長さなどの関係で、論点を絞り込む。いかに論点を絞り込むかが、重要なところ。
8)「自分の卒論を読んだ人は、自分の言っていることを分かってくれるだろう」という甘い考えは捨てる。読者にわかってもらうように書くことを、心がける。専門分野の用語や概念はしっかりと理解しておく。自分で勝手に新語は作らない。
9)書いて書いて書いて、編集して編集して編集して、推敲して推敲して推敲する。普通の学生・院生であれば、これ以外に良い論文を書く道はない。
10)論文においては、文字となったものがすべてである。プリントアウトされた文字(図表なども含める)以外には何もない。「なかなか考えがうまく表現できない」というのは言い訳にすぎない。思考が言語を道具とする限り、文字の背後には何もない!
形式的な事柄について
1)論文の分量は、あらかじめ見当をつけておく。卒論や修論の最低の分量が決められているから、その1割増し以上の分量で考える。しかし、長すぎてもいけない。冗長な論文になってしまう。長ければ良い、というわけでは決してない。
2)論文は「序論⇒本論⇒結論」という流れで構成される。卒論や修論は3章立てから5章立てが適当だろう。序論(諸言/序章)での問題提起は明確な形でおこなう。本論では、結論を導くために必要な学的手続きを正確に展開する(根拠の提示や引用の出典の明記など)。また、自分の文章と人の文章とは明確に区別する。剽窃や著作権の侵害になることもあるから、これについては、充分に注意する。結論では、本文をごく短く総括し、序論で提起した問題に答える。きちんとした結論がないと、論文ではない。尻切れトンボには絶対になってはいけない。結論は、原則として、それまで論じた内容から演繹されるものである。新たな要素を持ち込んではならない。ただし、論じきれなかった問題やさらなる問題等について、最後に言及することはかまわない。
3)「注」には、基本的に2つの目的がある。①引用や所論や図表等の出典を明らかにすること。②本文の内容を補足したり、さらに説明したり、本文とは直接関係ないが知らせたいことなどを書くこと。①について敷衍すれば、たんに引用や図表の出所をしめす場合と、論証を省略する場合とがある。後者についていうと、「この論証/議論については、以下のものを参照せよ」「これについては、~において詳しく論じられている」などという具合。先人の説や論証を借用するのは、恥ずべきことではない。しかし、それを明記するのが約束。②があまりにも長くなるのは良くない。必要なことは本文で論じ、余計なことは思い切って捨てるのが基本である。
4)「孫引き」(ほかの本や論文に引用している文・文章をそのまま引用すること)はしないのが原則。やむを得ない場合は、最小限にとどめる。
5)論文作成の手引きやマニュアルの類を、1冊手元において、つねに参照する。論文では、様式・形式・注の付け方などは、非常に重要である。これまで、様式・形式・注の付け方などが杜撰な卒論・修論に良いものはなかった。一般的に、内容と形式は相関関係にある。
星川啓慈
【謝辞】
今回のブログについては、筆者のかつての職場(図書館情報大学)の同僚であった、我田弘之先生(現・大阪大学)の「卒業論文執筆上の注意」を、大いに参考にさせていただきました。明記して、御礼申し上げます。もちろん、内容についての責任は筆者にあります。