学部・大学院

「学び」と「実践」を通じた人材育成

哲学・宗教文化コース

今こそ哲学!①

真夏なみの暑さが続いていますが、9月に入り、大学も秋学期が始まるところです。
 
ここで今年の上半期をふりかえりますと、いつのまにか「哲学」が時代のキーワードになっていたようです。
 
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の哲学の授業が、「ハーバード白熱教室」として日本でも放映され、著書『これからの「正義」の話をしよう』の翻訳も20万部を超えるベストセラーになりました。
また、『超訳 ニーチェの言葉』が50万部近い大ヒットとなっているように、古典な哲学書が読みやすい語り口調で新しく翻訳され、20代の若者を中心に広く読まれています。
そうかと思うと、マンガの中にも哲学をテーマにしたものが増えているようです。
先日はビジネス雑誌でも、これを「哲学ブーム」として特集が組まれたほどです。
学生、ビジネスパーソン、それに家庭のお茶の間も巻きこんで、哲学への関心が大きなうねりとなっているのです。
 
ではなぜ今、哲学がブームになっているのでしょうか。
本コースの司馬春英先生に、そこを分析していただきました。
「長びく経済的・政治的混乱の中で、自分の足元を見つめてみよう、基礎から考え直してみようという人たちが増えてきている。
『大学にやっと入ったと思ったら、就職難が待っているなんておかしいよ』と大勢の若者たちが思っている。
なんでこんなことになったのか、そこを知るための学問が「哲学」だ。ひとりで悩んでいても解決がつかない大問題を、みんなで考えるのが、大正大学の哲学の授業だよ!」
という内容の、力強いメッセージです。
2回に分けて掲載します。

 
今こそ哲学!
 
哲学は、根本的な問題を自分の力で問い抜いていく営みだ。
答えを見つけるよりも、問題のありかを明確にしていく作業だともいえる。
哲学によって「質問力(inquisitive mind)」が鍛えられるのだ。
 
今、世界が直面している問題は、どれをとっても簡単に答えが見つかるものではない。
しかも、その世界の問題が、たとえば大学生の就職といった身近な問題に直結している。
 
大きな時代の変わり目の時には、「これまでは、いったい何だったのだろう」という反省が生まれてくる。
新しい価値を創り出していくために、これまでの価値観を見直してみたい、という気運が高まってくる。
 
ここ2~3年の間、静かに進行し、今年に入って誰の目にも明らかになってきた「哲学ブーム」は、今が、ちょうどその時代の転換期になったのだということを示している。
ここで、そうした現在の状況を、時代の流れを少し具体的にふりかえる中で探ってみよう。
 
1980年代中頃に、ボン・ジョヴィというロックバンドの“Livin’ on a prayer”という歌が流行った。
歌詞は、トミーとジーナという労働者カップルが会社をクビになりながらも、支えあって生き抜いていく物語になっている。
当時は、浪花節的な愛の歌として受け止められたが、今の状況の中で聞き直してみると、二人が祈る思いで生きている「けなげさ」は身につまされるほど深刻だ。
この30年の間に何が起きたのか。
 
1980年代末から1990年代初頭にかけて、社会主義が没落し、資本主義が世界中に浸透していった。
しかし、その直後、バブルが崩壊し、長期の不況の中、先進国の低迷が続く。
この低迷を打破しようと、グローバリゼーションの掛け声とともに、世界中がますます市場の原理に飲み込まれていった。
 
市場の原理というのは、簡単にいえば、「競争が第一」の発想だ。
競争の結果、勝ち組と負け組に分かれるのはあたりまえ、負けたのはその人の責任だから、ライバルを蹴落として勝った人は後ろめたい気持ちを持つ必要はない、という考え方のことだ。
ホリエモン(ライブドアというIT企業の社長)が、そんな時代の勝ち組の代表としてテレビによく出ていたことは、高校生・大学生の皆さんも覚えているだろう。
彼の成功は、「うまくやれば自分も勝ち組になれるんだ」という夢を若者たちに与えた。
だが、その夢が幻想だったことは、ホリエモン自身のその後の転落が物語っている。
 
2001年の同時多発テロ事件は、アメリカの中のホリエモンのような人たちに対する1つの反撃だったと見ることができる。
テロそのものは決して許されないが、その背景には、こうした市場の原理に対する反感があった。
その問題の根源に気づくことなしにイラク戦争に突入したアメリカは、やがてリーマン・ショック、金融危機を招いてしまった。
日本国内でも、非正規雇用、鬱、自殺などが社会問題となり、大学生は就職難に直面している。
 
この「行き詰まり」状況は世界的なものである。これを打開するにはどうしたら良いのかは、今、世界中の人々の課題になっている。

 (「今こそ哲学! ②」に続く)

 

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