学部・大学院FACULTY TAISHO
哲学・宗教文化コース
講義の実況レポート
今回の哲学・宗教文化コースのブログは、西洋哲学がご専門の司馬春英先生に執筆をお願いしました。
「哲学」というと、「むつかしそう \(><)/」とか、「現代社会とどんな関係があるの?」という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の講義は、どのような感じなんでしょう? 司馬先生に実況して頂きます。
授業のリアルタイム報告をします。
10月17日の「哲学思想基礎論」では、今、ニューヨークで起こっているウォール街へのデモを取り上げました。「大学を卒業しても職がなく、健康保険も無い」という訴え。「富裕層に課税を! 貧困層に食べ物を!」というプラカード。
これに対して、1年前の丁度今頃に起きた「ティーパーティー」のデモは何を訴えていたかを思い出してもらいました。それは、オバマ政権についての中間選挙に際して、オバマ大統領に反対する共和党を支持するデモで、「ティーパーティー」の“Tea”が“Taxed Enough Already”(もう税金はたくさんだ!)の頭文字でもあったように、政府が税金を取ることに反対していました。今年のデモが格差への不満から、「富裕層に課税を!」と訴えているのと対照的ですね。
授業では、この二つのデモで訴えられている内容がどう違っているのかを皆で考えてもらいました。今年のデモは、金持ちから税金を取って、若者や貧困層の生活を保障することを求めています。不当な「格差」への不満が爆発しているのです。これは、福祉の充実(健康保険等)を求めるとともに、「自由」のための最低限の条件として、まずは不平等(格差)を解消してほしいという訴えになります。それに対して、昨年のティーパーティーの方は、逆に、貧困層の生活保障のために税金を取ることは「大きな政府」への道筋で、「自由」を妨げることに繋がる、と訴えていました。彼らは税金の無駄遣いを批判して、「小さな政府」を求めていたのです。
もう一つの注意点として、ティーパーティーのデモの写真に“Obama’s Plan=White Slavery”というプラカードが写っていることからも、このグループが政治的に極端な保守派であることも分かります。このように昨年と今年のデモを比較してみると、いろいろと見えてくるものがあります。そこには、社会の在り方についての根本的な考え方(思想)の違いが反映されているようです。この二つのデモを比較することから始めて、リベラリズム(自由主義)、リバタリアニズム(自由至上主義)、コンサバティズム(保守主義)、コミュニタリアニズム(共同体主義)という4つの思想的立場の違いについて考えていく手掛かりを掴んでほしい。それが今日の授業の目的で、今日が、これからの授業の出発点になる、と話しました。
ここで、閑話休題。ボンジョビの“Livin’ on a prayer”の絶唱。もちろん、教員自身のギター演奏兼ボーカルです。この曲は知っていたが、歌詞がこういう意味だとは知らなかった、という人が大部分でした。港湾労働者のトミーがストライキに参加した結果、クビになって、失業してしまい、彼女のジーナが一生懸命働いて生活を支えている。いつかは、こんな生活からは抜け出したいと思いつつ、祈るような思いを懐きながら二人で生きていく・・・。こんな内容です。この曲は1980年代に出来たのですが、今年のデモを見ていると、正に今の状況を歌っているようです。
授業の後半では、この4つの立場の違いを、まずはイメージとして捉えてみようということになりました。イメージなので、誤解も付き纏いますが、これからの授業の下敷きとして、まずは大枠をザックリ掴んでおくことも必要でしょう。リバタリアニズム(自由至上主義)は、「市場の原理」で、イメージで捉えれば「弱肉強食」。コンサバティズム(保守主義)は、昨年のデモを主導したティーパーティーでイメージ化しておきましょう。コミュニタリアニズム(共同体主義)は、人と人の絆を大切にするので、「村」でイメージ化しました。リベラリズムは、独立した個人同士が対等に話し合える空間を前提にするので、都会の「カフェ」でイメージ化しました。
ここで、鋭い質問。リベラリズムの代表的哲学者にカント、コミュニタリアニズムの代表的哲学者にヘーゲルが挙げられている(配布プリント)ことから見ると、コミュニタリアニズムは、「村」よりも「国家」でイメージ化した方が良いのではないか?
ウーン、その通り!・・・今日のところは、「絆」と「個人」を対照的にイメージ化したかったので、敢えて「村」にしたのですが・・・。
もう一つ、質問。リベラリズム(自由主義)とリバタリアニズム(自由至上主義)は、どちらも「自由」が入っていて、同じように見えるのに、違うとすれば、どこが違うのですか? この二つの立場が分かれた経緯があるなら、それはどういうことだったのですか? そう。そこが、これからの授業の課題となる問題点なんだ。今日の授業で例に出した二つのデモの違いとも関係する重要な観点だ。・・・タジタジ・・・。
それにしても、素晴らしい質問で、嬉しいやら、反省やら・・・複雑。
・・・というわけで、次回の授業は、今日のところはイメージ化しただけの4つの立場の違いについて、さらに詳しく説明していくことになりました。
それにしても、大正の学生の“inquisitive mind”(質問力)は、確実に伸びている、と実感した授業でした。
哲学・宗教文化コース 教授 司馬春英 (西洋哲学)